ココロもミルクに溶かして


「何これ?」

部室には緑茶やほうじ茶、紅茶やピーチティーまで様々なティーパックがある。
珍しいものは大抵貰い物でありボッスンがこれはなんだと言うのはつまり、これは誰に貰ったどういうものなのだ、ということだ。
しかし今回はティーパックでもなければ貰い物でもない。

「どや、ウマいか?」
「おう。なんかココアっぽいけどちょっと違うな…?」
『ホットチョコレートだな』

スイッチ自身は無表情であるが声にはニヤニヤというようなものを含んでいた。
いかにもなチョコを直接渡すのはやはり恥ずかしいというのは昨年思い知った。
今年も上手く渡せる気がしないので日常に紛れ混ませるこの方法をバレンタイン前日にずらして行っているということはスイッチには感付かれているのだ。

『チョコレートは元々飲み物だったらしいぞ』
「へー」
『18世紀スイスの画家、ジャン・エティエンヌ・リオタールがチョコレートを運ぶ少女という絵を描いていて、当時ヨーロッパの上流階級の人々に親しまれていたことが分かる』
「ふーん」
『カカオには滋養強壮の効果があり中南米では古くから薬として使用されているそうだ』
「そうなのか」
『…ボッスンはどちらかというとギャルゲーの主人公というより乙女ゲーの主人公だな』
「は?」
『鈍感という意味だ』
「意味分かんねえんだけど」
『そのうち分かるんじゃないか?』

スイッチはホットチョコレートを飲み干して席を立った。そろそろ帰らなければ始まってしまうからな、と荷物を纏めてドアに手を掛けて一言。

『明日はクッキーが食べたい』

そう言い残したスイッチの言葉にボッスンは、明日?と疑問を抱いているようでやはり鈍感だな、と思った。




ココロもミルクに溶かして

2013/2/12

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