二人で始める新生活


「一人暮らし?」
「おう」

大学を首席で合格したと伝えられたのがほんの数分前。一連の事件があった分心配はしていたが元々出来る頭があるのだから驚きはしなかった。

「俺もそろそろ自立しねえと駄目だろ?」
「面倒くさがりの安形に一人暮らしは向いてないと思うけどなあ」

実家を離れると言う事は安形の溺愛する妹とも離れるということだ。それは大丈夫なのか。そう思うもこれは今言うべきではないなと口をつぐんだ。

料理は出来ない事もないだろうし身体にあまりよく無いが出来合いのものだってあるのだから食に関してはそれほど問題ではない。

「洗濯とか出来るの?」
「あーなんとかなんじゃねえの」

洗濯機を回す順序や洗剤の量はなんとかなるとしてそれを面倒くさがれば意味がない。

「掃除は?」
「俺の部屋見たことあんだろ」

何度も足を踏み入れている安形の部屋は一見片付いているがそれはあまり動かない性格がそうさせているのと安形家の女性が手入れをしているからである。

「やっぱ安形には向いてないよ」
「だよなあ」
「なんでまた一人暮らししようと思ったんだ?」
「いつでも連れ込めるだろ?」
「誰を?」
「お前を」
「そんなに会えないと思うけど?」
「やっぱそうだよなー」
思わず流してしまったが一人暮らしを始める動機としては不純過ぎる。

「じゃあやっぱ二人暮らしにすっか」
「誰と?」
「分かってんだろ」
「朝から晩まで安形の世話するのは御免だな」
「俺が死んだらミチルのせいになるぞ」
「誰かしら面倒見てくれるでしょ」

ノリで同棲を始められるようなものではない。一緒に住もうと言われて二つ返事ではいと言える程単純ではないから敢えて少し突き放すような言葉を返した。

「なあ、」
「何?」
「お前の作る味噌汁が毎日飲みたい」
「ベタか!あとそれ前にも聞いたよ」
「俺と一緒に新生活を始めませんか」
「どこのCMだよ」
「好きだ。結婚してくれ」
「それは趣旨変わってる」
本気なのか冗談なのか分からないが恐らく前者とみて後者で返した。

「そんなに不安かよ」
「言うほどじゃないけどね」
「経済面だろ」
「バイトする気にでもなった?」
「俺に出来るバイトがあると思うか?」
「安形がその気になればなんだって出来るだろ?」
「その気にねえ…?」
『その気』が強調された発言と流れとその目からして安形はどうしても俺からのはっきりとした言葉が欲しいらしい。

「経済的に安定したらさ、」
「おう」
「同棲してくれる?」
「する。ぜってーする」




二人で始める新生活

2013/1/15

BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -