厚意は夜明け前にやってきた


寒さで目が覚めた。
目を開かずにそのまま再び眠りにつこうかと一瞬考えて目を擦り薄目で周りを見る。

「おはようございます」

ぼんやりとした視界で捕えたシルエットと声が一致する。夢か。いや違う。過去にも何度かあった。

「ん…キリ…勝手に入るなと何度言えば分かるんだ…」
「あけましておめでとうございます」

勝手に部屋に侵入したことを謝るよりも新年の挨拶を優先させたキリにつられて挨拶を返す。
「…おめでとう」

「混まないうちに初詣行きませんか?」
「今何時だ」
わざわざ眼鏡を掛けて見るより聞いた方が早い。
「5時ですね」
「…寝るから帰ってくれ」
「じゃあここで待ちます」
「いや、そういうことじゃなくて…」
「人の気配があると眠れませんか?なら気配は消します!」
「キリ」
「はい」
「初詣は昼じゃダメなのか?」
「混みますよ」
「確かに混んでいるより空いている方がいいが何もこんな時間に行かなくても」
「事件に巻き込まれるかもしれません!」
「大袈裟な…」
「それに会長がうっかり人混みに流されて万が一はぐれてしまったらどうするんですか!」
「携帯電話で連絡すればいいだろう。それにキリと一緒ならはぐれないと思うが…」
「会長…」

「だから初詣は昼にしよう」
諦めがついたのかキリから反論の声が上がらなくなった。

「…初日の出、見ないんですか?」
「初日の出?」
「いい場所見つけたんです。だから会長にも見てもらいたくて」
行くまで秘密にしておきたかったんです、と話すキリの声はだんだんと沈んでいった。


「…初日の出、何時なんだ?」
「え?」
「まだ間に合うのか?」
「はい!」
「顔を洗ってくるから待っていてくれ」
「お供します!」
「しなくていい!」
「では服を出しておきます!」
「それもしなくていい!」
「じゃあ…」
「大人しく待っていてくれ」
「…はい」

寒いだろうからヒーターをつけてやり適度な距離にキリを座らせてから物音を立てないようにゆっくりと部屋を出た。




厚意は夜明け前にやってきた


年賀メール
2013/1/1


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