及影


公園まで来てくれる?と及川が影山にメールしたのは21日の23時50分頃だった。
この寒空の中、外に出ていくのは気が引けたが影山は渋々その公園まで歩いた。
空が澄んでいて星が沢山見えたから空ばかりに目がいったが公園に佇む及川の姿の方が余程インパクトがあった。
「ハッピーバースデー飛雄」
「まだ2日早いですよ」
誕生日が、ではない。及川の纏っている赤と白が、だ。2日ほどフライングしている。
「いいじゃん48時間くらい。当日はどうせ他の男と一緒なんでしょ」
格好がふざけていれば言動もふざけているがそれが及川という男だった。
「部活仲間です。及川さんもですよね?」
「いやぁ彼女持ちは来んなって言われちゃったからねー」
「そうですか。じゃあその人と過ごすんですね」
「いや彼女いないし」
「見栄張ったんですか」
「みんなが勝手に解釈してるだけ。及川さんは見栄なんて張らないからね!」
「じゃあ一人ですか」
「飛雄が断ったらそうなるね」
「…部活の人たちは?」
「そっち行ったら彼女に振られたんだーとかいって騒がれるでしょ」
影山は吹き抜ける風の冷たさに早く帰りたいと思った。そういえばなんでここに来たんだ、とメールを思い出した。誕生日を祝われに来たはずだったのだ、と。
「もしかして及川さんクリスマスの約束取り付けに来たんですか」
「違うよ!飛雄の誕生日祝いに来たんだから!はいこれプレゼント!」
何か紙切れが差し出されたが風になびいていて表面の字が読めないままそれを受け取った。
「…『及川徹とクリスマスを一緒に過ごす券』?」
「これでクリスマスは一緒に過ごせるね!」
「……」
この人の強引さは相変わらずだと思った。
別に拒否するつもりはないがしかし拒否したくなるほどの笑顔があったから思わず顔を顰めた。
影山が嫌な顔をすればするほど及川の笑みは深くなっていくから影山はなるべく嫌悪を表情に出さないよう気をつけていたのだがそんなに器用ではない。
だから結局、影山は及川の思い通りになってしまうのだ。
「プレゼント楽しみにしてるね」
そう言って笑顔を浮かべる及川を見て影山は眉間に皺を寄せた。



クリスマスの前触れ

2013/12/22
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