木リコ


何がどうして二人で買い出しにくる事になったのかよく分からないままリコはスーパーでカートを押していた。
会計も済ませ後は帰るだけだというのに姿が見当たらない木吉を探そうと辺りを見回してみればピンクが眩しいその一角が目に入ってしまった。
歩き回っていても見つからないだろうし、とそのコーナーに近寄って行くと様々な種類のチョコレートが並んでいたが明らかに値が張るものばかりだった。
そのまま立ち止まる事無く流すように見て回って手作り用のチョコレートなどの材料が揃うそこで一瞬足を止めた。しかしすぐにまたその場から動く。
「もうそんな時期かー」
いつの間にここに辿り着いたのか木吉がふらふらと側を通りすぎながら呟いた。
「これとか美味しそうだな」
きらきらと光を反射して近寄る者を虜にするような高級チョコレートに目を奪われるその横顔にリコはやはり手作りはやめた方がいいだろうかと考える。
「…やっぱり市販の方がいいかな」
「なんか言ったか?」
「ううん。なんにも。今年はチロルにしようと思ってね」
さすがに一人一つは申し訳ないし三つくらいかな、と部員の数を掛けてみながら止まっていた足を動かした。



「チリだとさ、リコって美味しいって意味なんだよ」
帰り道。何の前触れもなく飛び出した知識にリコはツッコむわけでもなく相づちを打つ。
「そうなの?」
「だからリコなら美味しく作れるんじゃないか?」
先程のバレンタインコーナーでの話の事だということは理解出来たがしかし美味しく作れる根拠も何もない。ただ同じ名前というだけの事だ。
だがしかしせっかくそう言ってくれているのだ。流されるのがいいに決まっている。
「じゃあ…作ってみようかしら」
「ああ、楽しみにしてる」
その言葉は例えどんなに下手くそでも責任持って食べてくれるということでいいんだろうかと思いながらチョコレートが焦げたみたいな色の歩道を踏んだ。



2014/02/05
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