ん、ウマい



「ったくよぉー」

コンビニに昼食を買いに行こうと家を出た筈が、いつの間にか右手にリードを持っていた。

コンビニと家の間にある見知った犬がいる家の前を通る時にちょっかいを掛けようと近付いたら、花に水をやっている家主さんがいてちょうどいいからと犬を預けられた。

「お前、コンクリ素足とか地獄だろ?犬ってそういうの平気なのか?」

隣を歩く犬はハアハアと息を乱して舌を出していて、今にも死ぬんじゃないかと思った。

「やっぱ暑そうだな…公園行くか?」

近くに見える公園には幼児が遊べるような噴水があるのだ。
水浴びでもすれば涼しくなるだろう。


そうして一方的に話し掛けながら公園に向かえば、蝉が一段と元気に鳴いていた。
今どきの小学生はセミ捕まえたりしないのか、と思いながら取り敢えず日陰のベンチを目指した。

「やっぱ先にコンビニ行った方が良かったな…アイス食いてえ」

ベンチに座って脱力すれば、その瞬間にリードが手の内からするりと抜けた。

「あ、おいちょっと待て!」

犬が駆けて行く方に目をやればその先には見知った人物がいた。

「モモカ!?」

「え?」

オレの声に気付いたモモカは驚いた様子でこちらを見ていた。いきなり犬とオレが自分の下に走ってくるのだ。驚かないわけがない。

「捕まえてくれ!」

「う、うん!」

捕まえなくとも自然と犬はモモカに飛び付いていったのだが。





「何してんだ?こんなとこで」

「近くのスタジオで撮影してるんだ。今は休憩時間」

「そうか。大変だな」

「ボス男こそ、大変そうだね」

「これはまあ…うん」

「ちょっと待ってて」

「ん?おう?」



暫く待っていれば、モモカは飲み物を持って戻ってきた。

「はい、ボス男」

モモカは2つ飲み物を買ったようで、それはどうやらオレに渡すつもりらしい。

「いいのか?」

「もう買っちゃったんだから遠慮なく飲んでおくれよ」

「そっか」

「温くなったら不味いからね」

「んじゃあ、まあ…いただきます」

「どうぞ」


よく見るとその飲み物はつぶつぶみかんの入ったジュースだった。
てっきりオレのことなんて興味がないんだとばかり思っていたから好物を知っているという事実に少しだけ嬉しくなった。





ん、ウマい





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