~2012.06.01



「おお…これ掃除すんのか…」

水が抜かれたプールは少しだけ水が残っていて、藻に覆われていた。

申し訳程度に渡されていたビーチサンダルに履き換えてデッキブラシやバケツ、ホースなどを用意する。

「デッキブラシって楽しいよな」

「…いや、まあ分からんくないけども」

「シュッシュッて音がいいよな」

「それはよお分からんわ」



プールサイドからデッキブラシだけを中に入れ少し擦ってみると一瞬底が顔を覗かせた。


「ボッスンはよ入れや」

「オレ一番?」

「当たり前やろ」


ボッスンは少し躊躇いながらもゆっくり足を降ろした。

「おお、滑るな!」

「ちょおお前そこヌメリ落とせ。アタシそこ降りるわ」

「なんでだよめんどくせーなー普通に入って来いよ」

「だってコケたらイヤやねんもん」

「大丈夫だろ。なあ、スイッチ」

プールサイドに目を向ければスイッチは日陰からこちらの様子を窺っていた。

「お前もやれや!」

『だってぇー汚いしぃー』

「女子か!はよパソコン置いてこれ持ちぃや」

強引にスイッチの手を取ってデッキブラシを持たせた。

「はよせなプールにパソコン投げるで」

『それだけは勘弁してくれ!』

スイッチはヒメコから必死にパソコンを死守していた。

「見てみろヒメコ!」

「あ?なんやねん」

テンション高く声を上げるボッスンにヒメコは何事かとボッスンの下へ向かった。
ボッスンは手の平に何か乗せているのか水を掬うようにした手の器をヒメコに見易いように伸ばした。

「うぎゃああー!なんやこれ気持ち悪っ!」

「気持ち悪いとか言うなよ可哀想だろ」

「大体こんなんどこにおったん?なんなんこれ」

『ヤゴだな』

いつの間にか隣で同じように覗き込んでいたスイッチはスラックスの裾を捲り上げていた途中だったらしく、片方だけ中途半端だった。

「ヤゴ?」

『トンボの幼虫だ。肉食性の水生昆虫として有名だな』

「こんなんがトンボになるん?」

「コイツ肉食なの?」

『主に小型の水棲昆虫を食べるらしい。小魚の体液を吸うこともあるそうだ』

「アカン鳥肌たってきた…アタシもう帰ってええか?」

「ダメに決まってんだろ」

「お前がこんなん見せんかったら普通に掃除しとったわ!」

「別に何もしてこねーから怖くねーよ。ほら」

「やめろや!近付けんな!」

「だいたい虫ってーのはよく見るとみんな気持ち悪い顔してんだよ」

「なんのフォローにもなってへんやん!」

『さあ早く入りなさい!』

「お前もや!」

「早くしろよ!終わらねーぞー!」

「しゃーないなあ…」

デッキブラシを先にプールに立て掛け片足を伸ばす。

「滑ったらどうしよ」

「ほらよ」

中々入らないヒメコを見かねてボッスンが手を差し延べた。

「え、ええよ別に大丈夫や…!」

「ならさっさと入れよな」

「分かっとるわボケ」

プールの淵に手を掛けたままピョンと中に入った。

「うおっ!ぬっるぬるやな!めっちゃ滑るやん!」

「ほらスイッチも早く来いよ」

パソコンを手放したスイッチはプールの端の階段から慎重に降りていった。


「よし、それじゃあ掃除開始といきますか!」



こうしてやっと掃除をスタートさせた。






プール掃除ネタ2。
ちょっと強引に区切りをつけました。
掃除始めるまでのぐだぐだしたお話。





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