一部始終の一部分


「協力してくれだと?」
「最近あそこで変なもん見たって相談に来るヤツ多いんだよ」

何か捜し物の依頼の途中だったのか藤崎の服は随分と汚れていた。そして今ここで出くわした途端に協力を頼まれたのは公園の奥の林の調査だった。

「それならば明るい時間に調査に行けばいいだろう」
「それで分かったらこんなこと言わねーよ」
「我々生徒会が出向かなくてもスケット団でなんとかならないのか」
「何お前そういうの怖いの?」
「怖くなどない!」
「ホントか?」
「本当だ」
「じゃあ生徒会も来いよな!今日の夜、学校の門の前集合だからな!」
「あ、おい待て藤崎!」
廊下を駆けて行く藤崎は振り返る事も無くその場から離れて行った。そうして生徒会は強制的によく分からない依頼を協力することになった。



* * *



どうせなら肝試しをしようと誰だったかが発案した結果、くじを引いてペアで回ろうとのことだった。自分が引いたくじはどうやら加藤と一緒らしく加藤なら何が出ても撃退してくれるだろうと考えていた。


「どうしよ…」
暫く進んだ頃だった。俺は会長を見てくる、と加藤はあっという間に姿を消してしまってその場に広がる静寂が心拍数を上げていった。
一度立ち止まったが最後、足は思うように動かずその場に立ち尽くす。

「せや、次のペアが来るまで待てば…」
1人でこの道を進む勇気は無く、かといってこのままこの場にいたら次のペアであるボッスンとサーヤの邪魔をすることになるのだ。
別に懐中電灯が無いわけじゃない。大丈夫だ。足下とその先を照らし進めばいい。

「よし」
なんとか足を踏み出し一歩一歩ゆっくり進む。
鼻歌でも歌って気を紛らわせようとすればやがて聞こえてくる人の声。立ち止まって耳を澄ませばそれはどうやら前からではなく後ろかららしい。

「もう来たんか…?」

どうにか2人を邪魔しないようにと咄嗟に木の影に姿を隠す。
懐中電灯を握るボッスンとサーヤがこちらに向かってくるのが見えた。

(なんやアイツもビビっとるやん)
涙目のボッスンに思わず安堵の笑みが零れる。

(あれ?サーヤ…)
ボッスンは気付いていないのか気にしていないのかサーヤはボッスンの背中あたりを掴んでいた。



* * *



「うおおお!やっと終わったー!」

ゴール付近になった途端心なしかボッスンの足取りは軽く速かった。


『ボッスン、ヒメコは一緒じゃなかったのか?』
「ヒメコ?アイツ加藤と一緒じゃねえの?」

辺りを見回せば加藤は椿と話し込んでいるのが見えたがヒメコの姿は見当たらなかった。どういうことだ。

「加藤!」
「なんだよ」
「ヒメコはどうした」
「…俺は会長をお守りするために動いたまでだ」
「置いてきたのか」
「別に1人で戻って来れるだろ」
「お前それ矛盾してるぞ。椿がどっかで迷ったり転んだりするのが心配で動いたんだろ!?」
「ああ」
「それでよく1人で戻って来れるなんて言えるな!椿が守れりゃそれでいいのかよ!他の人間はどうでもいいのか!?」

自分が怖がりでなければここまで熱くならなかったかと言えばそうではなくただ純粋に心配で、足は勝手に動いていた。



* * *



「ヒメコー」

懐中電灯は足元よりずっと前に向けて視覚と聴覚を研ぎ澄ました。
歩みを進めて行けば立ち尽くすようにこちらを見ているヒメコがいた。

「ったく…」

小走りに近付けば肩が震えていて俯いたその表情を見ずとも泣いていることが分かった。

「ほら帰るぞ」

放っておいたらいつまでもそこに突っ立っていそうだからと強引に手を引いて元来た道を戻ろうとすればヒメコはそこから足を進めようとはしなかった。

「どうした?」
「…ティッシュ」
「ティッシュ?」
「女の子が泣いたら黙ってハンカチ差し出すのが男やろ」
「だってお前ハンカチ持ってんじゃん」
「鼻かみたい」
「ティッシュなんか持ってねーんだけど」
「持っとけやアホ…」



* * *



怖さよりも心配が勝って咄嗟に元来た道を戻っていったボッスンは暫くするとヒメコちゃんと一緒に帰ってきた。
自分といた時はあんなに怖がっていたのにその姿とは全く違っていて。適わないなあ、なんて思いながらその様子を眺めていた。



一部始終の一部分



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