寝息子守唄 以前夕飯をご馳走になった時と違う事が沢山あった。例えばボクが風呂から上がり藤崎が交代で入っている間に妹に宿題の手伝いを頼まれたりしたことだった。普段の暮らしでは経験をしないようなことばかりで困惑することもあったが楽しかった。 「そっちじゃねえよ」 双子なんだから一緒の部屋で寝たらいいじゃないという藤崎家の女性2人により藤崎の部屋に運び込まれた布団を床に広げようと思えば声が掛かった。 「オレがそっちで寝るからお前ベッド使え」 「何故だ?」 「下が硬くて寝れなかったとか文句言われたくねーんだよ。まだベッドのがマシだろ」 「文句など言わん!大体客に自分のベッドを使わせるのもどうかと思うぞ」 「なんだお前そんなにオレのこと嫌いか!」 「そういう意味ではない。例えばホテルのベッドが前の人の使ったままだったらキミはそこで眠れるのか?」 「そりゃあ他人だからだろ?別にオレとお前は他人じゃねーんだからいいだろ」 「それはそうだが…」 「いいからお前はそっちな!はいおやすみ!」 藤崎は強引に広げただけの布団に寝転んだ。 「もう寝るのか?」 「湯冷めしたら寒いだろうが」 「そうか、そうだな」 「おお、それで納得すんのか…じゃあ電気消すぞー」 「ああ」 申し訳無く思いながらベッドに上がり掛け布団を整え潜り込んだ。 「あーさみぃ」 ごそごそと身動きをし続けていた藤崎が音を上げた。先程まで暖房が入っていたとはいえ藤崎の布団は明らかに薄かった。 「これを使え」 普段藤崎が使っているのであろう掛け布団を一枚取り下の藤崎に掛けた。 「いらねーよ。大体お前が風邪引いたらオレが怒られるだろうが」 「キミが風邪を引いたらアカネさん達に迷惑が掛かるだろう」 「オレはそんな簡単に風邪引かねーよ」 「日頃キミはここで寝ているんだろう?」 「は?そうだけど?」 「普段こんなに布団を被っているくらいには寒がりなんだろう?」 「…そうだけど」 「やはりこの布団はキミが使うべきだ」 「あーもう分かった。こうすりゃいいんだろ」 起き上がった藤崎は被っていた布団をベッドの上に全て上げていた。 「何だ」 「オレもここで寝る」 「なんだと?」 確かに暖かいかもしれないが寝心地は悪いだろう。そう考えている間に藤崎はベッドに上がり込んで来ていた。 「もうちょい詰めろ」 「さすがに狭いだろう。ボクがそっちで寝よう」 「いいから寝ろよもう」 「しかし…」 「あ、お前寝相悪くないよな?」 「キミよりは悪くないんじゃないか」 「オレが寝相悪いみたいに言うなよ」 「悪そうじゃないか」 「なんでお前そういうこと言うの」 「言い出したのはボクじゃない」 「いいか、落とすんじゃねえぞ?」 「キミが勝手に寝返りを打って転がり落ちるんだろう」 「あーはいはいおやすみ」 「む…おやすみ」 藤崎に背を向けて横になってみれば、1人で寝る時にはない温もりが後ろにあることが暫く気になって落ち着かなかった。 兄弟と一つの布団に入って寝るというのは何かで見たことがあったがどうしてあんなにも幸せそうなのだろうかと疑問だった。 そうか、 「こんなにもあたたかいのだな」 「あ?なんか言ったか?」 「いや、なんでもない。おやすみ」 「ん」 寝息子守唄 |