貴方でないと意味はない


ボッスンにこの格好をしてくれと頼んだら嫌だよという拒否の言葉に続いて自分だけでは不公平だとズレた抗議が上がったのでじゃあ俺も着るなら文句は無いだろうということになった。

「冬に女子がタイツ穿く理由が分かったぜ…これは寒いわ」
そうだな、とボッスンが身に纏っているスカートの裾を摘めば何すんだよと払われた。
『モコモコの見せパンとか履いていないのかと思って』
「お前が用意した中にはそんなの無かっただろうが」
『ちゃんと全部着けたのか?』
「まあ…」
『ふむ。じゃあ』
「ちょ、何」
直に触れれば怒られるのは分かりきったことだから抱き付くくらいなら大丈夫だろうと背中に回した手で擦るようにすれば、そこには分かりやすい金具部分があった。
「なんだよ」
抱き締める為にパソコンは手放してしまったから何も伝えられない。
「おーいスイッチー」
お前のこれくすぐったいんだけど、と俺の着ている服のフードのファーに不満を漏らす耳元で聞こえるボッスンの声は俺の様子を窺うようにしていた。
肩に手をついて顔が見えるように距離を取って見つめてみる。化粧をしてウィッグを被れば男に見えないかもしれないなと思いながら顔を近付けて再び距離を縮める。
ボッスン。声に出すことは出来ないが口を動かして心の中で呟いたら、何?と返ってきたからそのままかさついて痛そうな唇を舐めてやった。
「ちょ、何」
ボッスンは照れや羞恥ではなくどこか不機嫌そうにそう言ったが返す言葉などない。
「…スイッチはやっぱ女の方がいいのかよ」
不機嫌な理由はどうやらそういうことらしい。パソコンを手元に引き寄せ言葉を紡ぐ。
『ボッスンだったら男でも女でも構わないが』
「俺、女に劣るとこばっかだぜ?」
『手先が器用で、人の話が熱心に聞けて、自分より他人を優先して、趣味が合って、一緒にいても飽きない奴がいると思うか?』
「いるかもしんねーだろ」
『俺はボッスンしか知らない』
「そうかよ…」
『ボッスン、』
目線を外していたボッスンを呼び掛け声で伝えられない感情を唇で直接伝える為にまたこちらを向かせようと思った。
「スイッチ」
が、仕掛けるより先に仕掛けられたらしく好きだと発するその唇から受けた温もりは愛情に満ちていた。




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