誤解の誤解


最近、新入りと椿の仲が良いらしい。ミチルに聞いた。
新生徒会になったのはつい最近だがいつの間に親しくなったのだろう。
お堅い会長様と仲良くやっていける1年なんかいるのか。
俺は少し不安になった。
椿が誰かに取られそうなら俺のものだと奪い返せばいいのだが、最近会っていないし愛想を尽かされてもおかしくはない。


ミチルから聞いた新入りの情報は、銀髪ということだけだった。
きっとこの新入りが女ならもっと細かい情報が聞けただろうなと思いながら一年の教室のある階へ向かう。




「生徒会の銀髪は今どこにいんだ?」

適当な奴に話掛けた。

「ああ、加藤ですか?加藤ならさっき屋上に行くのを見掛けましたが…」

「そうか。ありがとな」

3年の、しかも前生徒会長にいきなり話し掛けられたにしては冷静な態度だったな、と思いながら階段を上り屋上に出る。


「加藤、」

そう呟けば、物陰から人の気配。

「誰だ」

姿を現した加藤は敵対心剥き出しのような状態だった。

「お前が…」

相手を確かめるように見てすぐに本題に入る。

「お前、椿のことどう思ってんの?」

「はあ?なんだいきなり」

怪訝な態度で無愛想にこっちを見る加藤は生徒会役員にはとても見えなかった。

「会長はオレの主だ」

「主?じゃあ何?え?椿が上なの?」

「上?会長という立場の人間がオレより下なわけないだろ」

「おお…」

オレの下であんあん言ってた椿はどこに行ったんだ?

「用が無いならさっさと消えろ」

「は?」

「オレは今からここで会長と昼飯なんだ」

「そうかよ」

「10秒で立ち去ってくれ」

「おい、お前はどこ行くんだよ」

「会長を迎えに行く」

「わざわざ?」

「ここに来る途中、会長がトイレに寄りたいと仰ったから用をたしている隙に俺は屋上に異変がないか確かめに来たんだ」

突っ込みどころが多過ぎる。
連れションはまあいい。椿がトイレに行きたいと言っただけだ。
問題は人が用をたす間にここまで来れるのかだ。
そして屋上に異変なんて滅多に起きないと俺は思う。
例えば、誰かが自殺を謀っただとか謎の地上絵が書かれていただとかそんなことは起きないだろう。
まあクイズ大会が開かれてることはあるかもしれないが。

「…じゃ、オレは先に、」

屋上の出入口に足を向ければ、一瞬にしてそこは加藤に塞がれる。

「トイレに行こうなんてこと考えてんなよ。会長に手ェ出したら殺す」

そう言い捨てて加藤は階段を降りていった。

「それオレのセリフだろ…」

加藤が言うには、ここに来る途中のトイレに椿はいる。
普通に考えればここから一番近いトイレだ。
駆け足でそこに向かった。



トイレの前まで来て、足音を立てないように中を窺う。
人の話し声が聞こえたから中に入れば椿が、いた。
いる。いるんだけど…え?

「ちょっと待て!」

「なんだよ」

俺が見たのは、壁に背を預けた椿とそれに覆い被さっていた加藤だった。

「っ…あれ、安形さん?どうしたんですか?」

「何してんだよ」

「いたっ」

思わず握ってしまっていた椿の左手から手を離す。

「わり」

「いえ、手じゃなくて、」

「大丈夫ですか会長!」

「どういうこと?」

「睫毛が目に入ってしまったみたいで…」

自分で取るには鏡を見ながら取るのが一番だが、コンタクトを外し視力が悪ければ闇雲に目を擦るしか方法はないため仕方なく加藤に取って貰っていたという説明をしながら椿は水で濡らした手で擦ったり突いたりしていた。卑猥な話ではない。

「あ、取れたかも」

ゴシゴシと目を擦っていた椿がパチパチと目を動かしたりコンタクトをつけなおしたりしていた。

「じゃあ何?お前らそういう関係じゃないんだな?」

「今はな」

「今は?」

意味深な言葉を残してここから去ろうとする加藤は、でもまあ、と俺の横を通り過ぎる少し手前で口を開けた。

「次会った時はもう、会長はオレのモノかもな」

「は?」

「行きましょう、会長」

「え?ああ。では失礼します、安形さん」


鈍い後輩は鋭過ぎる後輩に奪われかけていた。




誤解の誤解




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