極貧


「ったくよぉースイッチのヤツ、途中で抜けやがって」

カラオケの途中、トイレに行ってくると出ていったスイッチがいつまで経っても戻って来ず、そろそろ終わる時間だと思った頃にメールが届いた。
どうやらスイッチはオタク共のところへ行ったらしい。
何も言わずに抜け出すなと一言メールを送り返し、カラオケ屋を後にした。

「アタシお腹空いてんけど」

「あー確かに」

カラオケ屋でフードは学生の財布にはキツい為ジュースしか口にしていなかった。
といっても夕飯前の時間帯なため大したものを食べるわけにはいかない。

「この辺ってなんかあったか?」

普段なかなか来ない場所の情報は少ない。
こういう時にスイッチがいてくれればいいのだが。

「あ!」

「なんだ?」

「たこ焼きや!」

ヒメコの指差す先を辿るように見ればたこ焼き屋が遠くにあるのが分かった。

「お前視力良いなー」

「こんなん普通やろ」

早く行こうと腕を引っ張られ気味に歩く。
どんだけ腹減ってんだ。





「おっちゃんこれひとつ!」

「はいよー」

「ほれ、アンタは何にするん?」

「いや、オレはいいや」

「なんで?」

「金欠」

ヒメコはなるほど、と自分が頼んだたこ焼きの代金を払いたこ焼きを受け取り通行人の邪魔にならない場所へと移動した。

「できたてやな」

輪ゴムで止められた容器を開けると薄く湯気が上がった。

「おお、ウマそうだなー」

アツアツのたこ焼きの上で踊るカツオ節だけでもいいから食べたいと思った。

「ん、」

たこ焼きに楊枝を刺し持ち上げたところで動きが止まった。

「何」

「一個だけなら食べてもええよ」

「お、おお、サンキュー」

いつもなら絶対くれないだろうに。どうしたものか。というか、これは口を開けろということだろうか。絶対火傷するぞ。

口に入る寸前に軽くふうふうと息を掛け冷ますがあまり意味はない。
そのまま口の中に入った。

「おいしい?」

「うん」

「よろしい」


ぶっちゃけ熱いのだがそんなことよりこの状況にどう構えたらいいのか分からなかった。
食べさせるなんて今時のカップルでもやってるところをなかなか見ない。

「ん、まあまあやな」

隣でたこ焼きに夢中のコイツはいつも通りで、益々どうしたらいいか分からなくなった。




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