ぬくもりにふれた瞬間 やばい。遅刻だ。 会長は常に5分前行動を心がけている。 だからオレはその更に5分前には着いていなければならないのだ。 「おはようございます、会長」 「おはよう」 「すいません遅れてしまって…!」 「一応まだ約束の時間まであと3分ほどあるし遅刻ではないから謝る必要はないと思うが」 「はい!ありがとうございます!」 下げた頭を上げれば、会長の視線が上下してるのに気付く。 「キリの私服を見るのは初めてだな」 「変でしょうか?」 「いや、とてもよく似合っている」 会長に合うように色々リサーチをした甲斐があっただろうか。 「会長も、会長らしくていいと思います」 「そうか…ボクはあまりファッションに詳しいわけじゃないからな…そう言われても複雑だ」 会って早々会長を困らせてしまっただろうか。 「あの、会長!」 「なんだ」 「良かったら一緒に服選びませんか?」 自分でも烏滸がましいと思ったが、少しでも会長に喜んで欲しくて何か無いかと辺りを見渡した際に服屋が目についたのだ。 「あ、いや、迷惑ですよね!すいません!」 「そうだな。映画まで少し時間があるからそうしよう」 今日は前々から話題に上がっていた映画を見に行く予定だったのだ。 「では、キリのおすすめの店に案内してくれるか?」 会長の好みの服があるような店を頭に浮かべ、行き方を思い出す。 「それではまずあちらへ行きましょうか」 オレの指差した方へ歩みを進める会長の一歩後ろを歩く。 見慣れた筈の後ろ姿も制服ではないというだけですごく新鮮だ。 「そういえばキリは、」 今まで楽しそうに会話をしていたのだが、会長の明るい口調がそこで止まった。 「キリ」 ふとオレの名を呼んだ会長は歩く速度を少し落としてから立ち止まった。 「どうかしましたか?」 「隣を歩いてくれないか?」 「隣、ですか?」 「そうだ」 「隣だなんて恐れ多いです!オレは後ろから会長をお守りします!」 「キリはボクを守れるし視界から外れないだろうがボクはキミの姿を見られないし守れない」 だから隣を歩け。そう言ってひかれた手は暖かくて、ああそうだ会長はこういう人だったと思い出した。 ぬくもりにふれた瞬間 |