一番の宝物1



※高校卒業後、同居、死ネタ






「椿ー」

部屋に響くチャイムに誰だろうかと玄関に向かえば、聞き慣れた声が聞こえた。

「安形さん!?」

ドアの鍵を解除し開ける。

「よお」

「何しに来たんですか」

「ちょっと寄っただけ」

「はあ」

邪魔するぜーと勝手に上がり込む安形さんの後ろを歩く。

「藤崎は?」

「コンビニです。もう帰ってくると思いますけど」

「そうか。二人暮らしには慣れたか?」

「まあ」


部屋を見回す安形さんをそのままに、キッチンでコーヒーを淹れる。



「まだ片付いてねえじゃん」

「それは藤崎のです、あ!」

「危ね!」

まだこの部屋に慣れていないためか段差に躓き、転んでしまった。
運んでいたコーヒーは溢れてしまっていた。

と、バタバタと玄関の方から足音が聞こえた。藤崎か

「かっかっか。お前でもコケんだな」

転んだ時に安形さんを巻き込んでしまったようで、僕の下敷きになっていた

「だ、大丈夫ですか!?」

「オレは大丈夫だけど」

安形さんの目線の先には藤崎がいた。

「なんだよ…」

藤崎はコンビニの袋を投げつけてバタバタと出ていった。

「そりゃまあ誤解するわな」

前のめりに転んだ僕はそのまま安形さんを押し倒すような形になっていた。



それが、数日前の出来事だ。



(繋がらない…)

誤解を説こうと藤崎に電話を掛けるが、繋がらず。
かれこれ1週間、藤崎は帰って来なかった。


(テレビでも見よう…)


テレビを点ければ、先日から話題になっている地下鉄での事故についてのニュースが流れていた。
事故が起きてからもう何日も経っている。

もしかしたら藤崎はこの事故のせいで電車に乗れず足止めをくらっているのかもしれない。
きっと今頃知り合いの家か実家にでもいるんだろう。


どうやらその事故の被災者は皆、健康保険証の裏面に臓器提供意思を記入していたらしい。
亡くなった人の名前が画面に映る。

このような事故のニュースはあまり目にしたくないのだが、今の時間はどの放送局も同じような内容だ。

(掃除でもするか…)

テレビを消そうとリモコンに手を伸ばすが、テレビから聞こえた聞き覚えのある名前に僕の思考は停止した。

『藤崎佑助さん、』

僕は耳を疑った。
何かの間違いだと思った。思いたかった。
きっと同姓同名なのだと、信じたかった。


流れゆくニュースでは事故の詳細などが語られていた。

『救出された生存者によると、最初に健康保険証の裏面に臓器提供意思を記入したのは死亡の確認がされている藤崎佑助さんで、藤崎さんは率先して現場の指示をしていたそうです。…』

僕はそこで確信してしまった。
人の為に動く藤崎佑助は、
僕の知っている藤崎佑助なのだと。
他人などではないということを。


「な、んで…っ」



藤崎は、父親と同じく人を助けて死んだ。
恐れていた未来が現実になり、僕に突き付けられた。

決定的に違うのは、藤崎は事故に巻き込まれたということだ。
それでもなお、人の為に動いていたことに変わりはないのだが。

僕のせいだ。
僕があの時、誤解を招くようなことをしたのがいけないのだろう。
躓いたりしなければ。


日常的に誤解を招く発言をしたり口論になったりすることが当たり前の生活に慣れ過ぎていた。

喧嘩をしてすぐに謝れるほど素直じゃないが故に、
何日も口をきかない状況が、当たり前だった。
だから今回も、日が経てばいつも通りの日常が来ると思っていたのに…。


テレビでは、救出が遅れた理由について語られていたがそんなこと今更語られたって、失ったものは元に戻らないのだから意味はない。


「藤崎…っ」


胸が苦しい。
涙が止まらない。
そんな簡単な言葉で表現出来ないほどの感情が溢れていた。


家の電話と携帯電話が鳴っていたけど、出られなかった。






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