∵ あめ、アメ、雨

『「傘入れてくれ!」』

「はあ?」

教室に忘れ物を取りに行って、日直でまだ残っていたキャプテンとお喋りして部室に戻ってきたらこれだ。

「傘無くて困ってるヤツに貸しちまってよー」
『折り畳みを部室に置いておいたのだが昨日発明品を作るのに使ってしまった』
「せやから入れろと?」
『「そういうことだ」』
「いやいや無理やろアタシの傘そんな余裕無いで?」
「なんとかなるだろ。ほら帰るぞー」
入れると一言も言っていないのだが、既にその気らしい。




昇降口で靴に履き変えて、傘立てに刺さった沢山の傘の中から自分の傘を探す。
「ホンマに入るん?」
「お前はオレたちを見捨てて帰るのか!」
「いや自業自得やし…あ、これ使ったらどや?」
自分の傘とは離れたところに置いてあった傘を指差した。

「傘の持ち主可哀想だろ!」
『ボッスン、この傘は振蔵のものだぞ』
「振蔵?ならまあ別に…いややっぱ駄目だろ」
「その本人を待っとったらええんちゃう?」
「やだよいつになるかわかんねーし」
よ、と右手に持っていた自分の傘を取られた。
「あ、おい」
「お!意外とイケんじゃねえか?」
ボッスンは外に向けて傘を開いた。

「返せや」
左後ろから傘をぶんどって自分だけ外に出た。
「待て待て」
すかさず駆け込んでくるボッスンとは対照的にスイッチはパソコンを鞄にしまってから駆け込んできた。

「いややっぱ3人て無茶やろ!ちょおお前出ろや!」
「イヤだ!オレは酸性雨に当たると溶ける体質なんだ!」
「どんな身体やねん!ほなスイッチ出ぇや」
「おいおいスイッチ今パソコン開けねーんだからお前が出ろよ」
「なんでやねん!これアタシの傘やぞ!」
「大体なんでお前が真ん中なんだよオレ左肩びっしゃびしゃなんだけど!あとお前もっと上持てよスイッチ頭擦ってんだろ」
傘の柄を握っていた右手にボッスンの右手が重なって傘の高さを上に上げられた。
「…そんな上やったら腕疲れるやん。ほんならお前が持てや!」
「え?オレ持っていいの?お前ら濡れるよ?」
「じゃあやっぱお前出ろや」

「ペロキャン奢るんで入れてくださいお願いします!」
「必死か!…でもまあ奢りなら…しゃあないなあ」
スイッチもやで、と喋らないスイッチにも同じ条件をつけて歩きだした。
窮屈なはずなのになんだか心地よく感じるのはきっと雨の冷たさのせいだと思った。



あめ、アメ、雨

2012.06.16

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