∵ fingernail

「ボッスン」
「ん?」
「ちょお頼みごとがあんねんけど」
「おお、なんだどうした」

「ネイルやってくれ」
「は?」
「道具はあんねん!な?ええやろ?アンタ器用やし!」
「いやいや自分でやれよそれくらい」
「出来ひんから頼んどるんや」
「塗るだけだろ?お前化粧とかしてんだしそれくらい簡単だろ」
「せやねん。簡単だと思ってん!アタシな、小学生の頃オカンの友達にペイントアートのネイルやってもろたことあんねんけどそれ思い出して自分でもやってみよかなー思ってジェルネイルのキット買ってん。ほら、中谷さんネイルサロンでやってもらった言うて見せて貰うたやつめっちゃ綺麗やったんよ!でも一万以上するらしいやんか?やからな、」
「あーもうわかったわかったやりゃーいんだろ」

「ホンマ!?やってくれるん?」
「その代わりなんか奢れよな」
「ありがとうボッスン!」

「で、やり方とか載ってる本ねえの?」
「ん、あるでーえっとどこやったかな…あった!」
本を受け取ったボッスンはペラペラとパラ見していく。

「どや、出来そうか?」
「なんか面倒くさそうだな…1週間後でいいか?」
「1週間でええのん?」
「3日くらいでもマスター出来そうだけど」
「無理さすんもあれやし1週間でええわ」
「じゃあ道具一式1週間借りるぜ」




1週間後。
途中で依頼が来たら中断せざるおえないが部活中にネイルしてもらうことになった。

「よし、こんなもんか。ほら、手出せよ」
道具をスタンバイし終えたボッスンが差し出した手に自分の手を乗せればボッスンの視線が自分の指先に注がれる。

「……」
「……」
「…なんやそんな凝視すんなや」
「いや、お前意外ときれいな手してんだなーと思ってよ」
「な…」
「で、爪の形は?どうする?昨日チップで練習したんだよなー!ほらこれ!スクエアかスクエアオフかラウンドかオーバルかポイントか、」
「いやわけわかれへん」
「お前性格がスクエアっぽいからラウンドかオーバルあたりにしたらどうだ?」
「なんや性格がスクエアて」

「オーバルはスクエアより強度は落ちるけど上品に見えるんだ」
「ほー…よお分からんけどほな、それにしよかな」

「そういやどういうのにするか聞いてなかったな。どうする?」
「どれなら出来るん?」
「基本的なヤツならなんでも出来るぜ!」

「ほな、これは?」
「お前にそれは似合わねーだろ」
「なんやと!」
「そういう色だと肌がくすんで見えるんだぞ」
「そうなん?」
「爪と同化する色とか白っぽい色はそうらしい。逆に赤系だと綺麗に見えるんだとよ」
「お前どんだけやねん!ほなお前のオススメはどれや?」
「オススメか?そうだな…これとかいいんじゃねーか?」
「おお…ええやん!可愛いやん!アタシこれにするわ!」
「ホントにこれでいいのか?完成した後にイヤとか言うなよ?」
「言わへんわ!アタシそんなわがままちゃうで」
「いや素人にネイルやれって充分わがままだろーが」
「ボッスンは素人ちゃうねん。素人のプロやねん」
「素人のプロってそれただのド素人だろうが!」
「なあなあ、素人ってなんで素の人って書くん?」
「話が直角に曲がり過ぎだろ…知らねーよ」
「素の人ってありのままの自分ってことなんちゃうん?」
「いやだから知らねーって」
「なんかええ感じの字やのに素人ってあんまええイメージないやん」
「その話続けるの?オレ知らないよ?」
「ちょおスイッチにメールして訊いてみよ」
「ネットで調べた方が早いと思うんだけど…じゃなくて!ネイル!」
「おお、すっかり忘れとったわ」
「忘れてたんならもうやめるぞー?」
「なんでや!ちゃんとやれや!」
「やるやる。やるから途中で暴れるなよ」
「アタシをなんやと思っとんねん」
「牛…いや、冗談」
「…もうええからはよやれや」

「よし、じゃあまずはプレパレーションだな」
「なんやその実験道具みたいな名前」
「それは、アレだ。アレだろ…アレ」
「出てこーへんやないか!アホやなあアンタは。プレパラートやろ」
「プレパ…お前頭打ったか!?」
「なんでやねん!アンタどんだけ人をバカにしとんねん!テレビや、テレビ。昨日テレビのクイズ番組でやっとったんや」
「ああ、なるほど」
「お前後で覚えとけよ」

こうして談笑している間にも爪を整える作業は進んでいった。



「そういえばアンタの手もアレやな」
「あ?」
「あんま男っぽくないなあ」
「うっせ!オレは十分男気に満ち溢れてんだよ!」
「はいはい」



暫くしてようやく赤いカラーが爪に乗ってそれらしくなってきた。

「きれいな色やなあ」
「触るなよ」
「分かっとるわ」



その後も作業は続き、そろそろ座りっぱなしも辛くなってきたところだった。

「もう完成ちゃうん?」
「ああ、この未硬化ジェルを拭き取れば完成だ」

「いやーしっかしさすがやなあお前!」
「だろ?オレやっぱ天才だろ?」
「ちょお写真撮ってぇや!」
「…オレの発言無視なの?」
「ほれ、ボッスン写メ写メ!」
「……」
ボッスンにケータイを渡し、しっかり写るように両手の指を揃えた。

「…いくぞー」
シャッター音が鳴り、ケータイの画面を覗けば思ったより色の違う出来だった。
「アタシのケータイ画質悪いなあ…まあええか。せや、アンタ夏になったら足の爪もやれや!な!?」
「足の爪面倒くさそうだな」
「やるよな?」
「…やらせていただきます」



fingernail

2012.04.26

( prev : top : next )
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -