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「例えばキリの知らないところでボクが死んでいたらキリはどうする?」

いきなり何を言い出すのだと思った。この人はたまに意図の分からない発言をする。
会長がオレの知らない所で死んでいたら?そんな悲しいことがあってたまるか。
もしやそれは何者かに狙われているから護衛欲しいということなのだろうか。
それならばオレは一時たりとも会長から離れず警護に当たらなければならない。
「敵ですか!?」
「違う!そんなものいないと言っているだろう」
「では何でしょうか?」

「…キリは、ハチ公の話は知っているか?」
「ハチ公ですか?まあ、なんとなくですが」
ハチ公の話は確か、死んだ飼い主をずっと待ち続ける犬の話だ。

「昨日、押し入れの片付けをしていたら小学生の時に読んだハチ公の本を見つけたんだ。懐かしいと思って読んでみたんだが恥ずかしながら涙が止まらなくなってしまって…もしボクがハチの立場だったらどうするだろうかと考えていたんだ」
「どうするんですか?会長だったら」
「…待つだろうな」
会長がそれ程までに慕う人間は誰なのだろうか。
やはりハチ公と同じく育ての親だろうか。

「キリは、キリだったらどうする?」
「オレですか?そうですね…オレもやはり同じように待ち続けます」
「そうか」

「だってオレの飼い主は会長ですから」
「なっ…そうか」
「ええ」
これはきっと会長なりの甘えだ。寂しいのだろうか。
どんなことが起ころうとオレは会長から離れたりしないというのに。
何か不安なことでもあったのだろうか。

「…重くなってしまったな。すまない。今日はそんな日ではないというのに」
会長は鞄の中を探りながら一瞬こちらを見て微笑んだ。

「誕生日おめでとう、キリ」
祝福の言葉と共に贈られたプレゼントは外から見ただけでは中身が何か分からないが会長がこれをプレゼントに選ぶ為に悩んだ姿を思えばどんな物でも嬉しかった。
「覚えていたんですか?」
「ああ」
「凄く嬉しいです!ありがとうございます!家宝にします!」
「いや、家宝はちょっと…」
「会長がオレの為に選んで下さったんですから家宝です!」
「はあ…まあ好きにするといい」
「はい!ありがとうございます!」





2012.04.08

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