∵ 放課後デート 榛雛 「一緒に来てほしい」 生徒会の集まりが終わって帰ろうとした時だ。 荷物をまとめるのに時間を要してしまっていたオレはてっきり一人取り残されたかと思っていたから少し、驚いた。 声の主が安形とかならまだそこまで驚かなかったかもしれない。 「どうしたのデージーちゃん」 「一緒に来てほしい場所がある」 デージーちゃんが頼みごとなんて、よっぽどのことなのだろうか。 「いいけど、どこに?」 手渡されたのは一枚のチラシで、そこには彼女が好きなぬいぐるみの写真が並んでいた。全国のアミューズメント施設にて展開…なるほどね 「これとか可愛いね」 「いや、それはもう持っている。それよりこれがどうしても取れなくてだな…」 オレが指差したその商品の写真より大きく掲載されているそれをデージーちゃんは差した。 ていうか、既に持っているということは一人でゲーセンに行ったのだろうか? それとも誰か他の人と行ったのか? そうだとしたら何故オレなんだ? 「いつにしようか?なんなら今から行く?」 「そうだな…休日だと榛葉さんに迷惑を掛けてしまいそうだから」 そう言いながらデージーちゃんは窓の鍵を施錠し始めた。どうやら今から行こうということらしい 「やったデージーちゃんとデートだ」 「勘違いするな」 二本の指が目をめがけて飛んできた 「最初は、会長を誘えば一番早いと思ったんだ。しかし中々生徒会に顔を出さないから捕まえられなくて、ミモリンを誘うとゲーセンの意味がなくなる。椿君は行ったことがなさそうだから仕方なく榛葉さんに頼んだんだ」 「…そっか」 「ああ」 なるほど。だからオレなのか。UFOキャッチャーかー…お金あったかな… 「じゃあ、行こっか!どこのゲーセン?」 「駅前だ」 「ゲーセンって久しぶりかも」 「久しぶり?毎日女連れ込んでるんじゃないのか」 「そんなことしてないよ」 「嘘をつくな」 「オレそんなタラシに見える?」 「見える」 「ええー」 オレは目的の台の場所を知らないからデージーちゃんの後ろをついて歩いていた。 男が後ろ歩くってなんか納得いかないけど。 「あ、ねえデージーちゃん!太鼓やろう!」 「却下」 「ええー!じゃあプリクラ」 「却下」 「せっかくゲーセン来たのにー」 「…これ、取ってくれたらなんでもやってやろう」 デージーちゃんが立ち止まった。目の前の台の中には巨大なぬいぐるみ。 これは正直、取れる気がしない… 「取れたら、絶対太鼓とプリクラね!」 近くにあった両替機で千円札を二枚崩す。 いちいち財布を開け閉めするのが面倒になるだろうと思い、百円玉数枚を手に握り残りは制服のポケットに入れた。 今日は一回100円の日らしい。 投入口には100円1プレイと200円3プレイの二通り表示されていた。 一回で取れるとは思っていないから二枚入れた。100円で一回より200円で三回の方がいいに決まってる。 操作ボタンはスティック型でいくらでも動かせるタイプだ。 しかし明らかに重量のあるそれと、緩めのアームである。 まあ、考えるより一度プレイしてみよう。 「もっと右じゃないか?」 「ここでいけるって!」 アームを回転させるボタンを少しだけ押し、降下させた。 ぬいぐるみはびくともしない。 「何これ取れんの?」 「取れなかったから榛葉さんを呼んだんじゃないか」 「難しいっていうレベルじゃないよね」 隣の台で同じものを狙っている女の子たちも一回やっただけで諦めているくらいだ。 学生の財布には厳しい。 それから何回か続けた。 もうすぐ崩した分のお金がなくなるというところだった。 「これいけるよ!」 今までも持ち上がったことは幾らかあったが、上まで上がる途中で落ちてしまっていた。 「落ちるなよー…そのままー…うわー落ちたぁあー!」 だんだんテンションの上がってきたオレをよそにデージーちゃんはいつもと変わらない表情だった。 「榛葉さん、もういい」 「え?だってまだ取れてないよ?」 「このままでは榛葉さんの財布が空になってしまう」 「大丈夫だって!だってオレ楽しいし!」 「…」 「女の子の頼みを断るわけにはいかないよ」 申し訳なさそうにしているデージーちゃんのためにも、オレの財布のためにもとにかく早めにゲットしなきゃなと思った。 そういえば今までUFOキャッチャーで一発で取れた時ってもっと気軽にやってたよな…逆に適当にやったほうがいいのか? 慣れた手つきで百円玉を投入し、スティックを動かしボタンを押し、降下したアームがぬいぐるみを掴み上げた。 「あと少し!」 そのままアームはぬいぐるみを落とすことなく景品口まで進んでいった。 「よっしゃ!」 屈んで、景品口からぬいぐるみを取り出した。 「取れたよデージーちゃん!あれ?」 夢中になりすぎたのか、隣にいたはずのデージーちゃんはいつの間にかいなかった。 「トイレかな?」 とりあえず周りの台を物色してデージーちゃんが戻ってくるのを待つことにした。 「あ、」 少し離れた台の前にデージーちゃんがいた。 そっと近付いて背後から様子を窺う。 邪魔しないタイミングでデージーちゃんの背中にぬいぐるみを乗せた。 「デージーちゃん」 背中じゃ見えないか。再度ぬいぐるみを抱きかかえデージーちゃんに見えるようにした。 「取れたよ」 デージーちゃんは手渡したそれを大事そうに抱え見つめていた。 「…ありがとう」 「どういたしまして」 放課後デート 「それじゃあ太鼓とプリクラ行こうか!」 「却下」 「ええ!?」 2012.01.16 |