∵ キスができたら

いつもは生徒会室の中で聞く後輩の真面目なお疲れ様でした、という声を廊下で隣で聞いた。
今日は帰るタイミングが同じなのだ。
いつもは仕事をしているのに。

「おほっ、椿も一緒に帰るか?」
「いえ。会長とは家の方向が違いますし」
「いいじゃねーか。コンビニ寄っていこうぜ」
「寄り道などいけません!」
「コンビニくらいいいじゃねーか」
「安形、サーヤちゃんが家で待ってるよ?」
一瞬でも、100分の1でもオレだけを考えて欲しかった。
永遠じゃなくてもいい。椿ちゃんのことは忘れて欲しかった。


「なあ安形ー」
「あ゙んだよ」
「機嫌悪っ」
結局椿ちゃんは昇降口でスケット団に絡まれながら帰っていった。
機嫌の悪い安形には何を言っても通じないので黙っていることにした。
時々横を向くと視線があう。
そのまま奪えたらいいのに。
でも、情けないことにどうしたらいいか分からない。
近すぎたのだ。近くて遠い存在。
いつだって傍にいるのに、遠い。
指さえ触れられないのに抱き合えるだろうか。
唇に触れずにキスは出来るのだろうか。
考えを巡らせてみる。


隣を歩く安形のペースより少し遅れて歩く。

オレが出来るのはこれくらいか。

ダルそうに歩く姿に気付かれないように静かにそっとキスを投げた。




──────────
ネタ:唇 触れず…

椿←安←榛で書きたかったんだけど納得できるものができない…!



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