∵ 見回りという名の

榛雛





夏休み。
生徒会は、手分けして見回りをすることになっていて
二人組、ローテーションで生徒が遊んでいそうな場所を回る。
本来これは先生がやるものなのだが、生徒会が担当となっていた。

榛葉は昨日、昼間に安形とプールへ向かった。何故男二人でプールに行かなきゃならないんだと嘆いていた榛葉だったが結局楽しんでしまっていた。

そして今日、榛葉は浅雛と海の見回り。昼間の海は数日前、椿と丹生が見に来ている。今日は夜の海だ。
ついでに公園など通り道も見回りをするということになり自転車で待ち合わせをしていた。



待ち合わせは夕方、5時である。
夏の5時はまだ空が暗くなく気温も高い。


「あっついなぁー」
待ち合わせ10分前に到着した。きっとデージーちゃんは時間きっちりに来ると思ったからだ。



「すまない。修理に出していた自転車がまだ時間がかかるらしい」
そう言って現れたデージーちゃんはなんだかいつもと雰囲気が違っていて。

「そう…じゃあ、」
数年前に買った荷台付きの自転車を跨ぎ自分の後ろを指差した。
「乗る?」
「……」
「やっぱデージーちゃんこういうの嫌?」
「…そういうわけじゃない」
「じゃあ、」
「迷惑じゃないだろうか?」
「…迷惑っていうか、寧ろ歓迎かな。こういうの楽しいし。逆にオレが迷惑かも」
電車で行けば良かったね、と言おうとしたがその前にデージーちゃんが迷惑じゃない、と荷台に横向きに乗った。

「大丈夫?坂とかあったら危ないよ?なんなら自転車貸そうか?オレ歩くし」
心配し過ぎたのか、デージーちゃんは一度荷台から降り、今度は横向きではなく、跨って荷台に乗った。

「榛葉さんの運転技術に期待する」
「うーん期待に沿えるかなぁ」
「早く行こう」
そう言ったデージーちゃんはオレのシャツの裾をギュッと握っていた。

「…立ち乗りにする?」
「いや、大丈夫だ」
そう?と言い掛けたところで、腹回りに温もりを感じた。
少し、びっくりした。
きっとデージーちゃんはこんなことしてくれないと思っていたから。腹に回された腕が、緊張気味に少し震えていた気もした。

「じゃあ、しっかり掴まっててね」




何度も、大丈夫かと後ろから心配の声が聞こえたがオレはそんなに頼りないのだろうか。しかし本音を言えば、海まで漕ぎ続ける自信はあまり無かったりする。
一番の不安はやはり、上り坂だ。上り坂が多かったらどうしようと思ったが、不幸中の幸い、どちらかといえば下り坂がけっこうあった。
下り坂もそこまで安心は出来ないのだが。
適度にブレーキをかけ緩やかにくだる。

「ちょっとコンビニ寄ろうか」



駐輪場に自転車を停めエアコンのきいたコンビニに入る。

「喉渇いたでしょ?何か奢るよ」
「いや、私は大丈夫だ。榛葉さんほど渇いてはいない」
「そんなに飢えてるように見える?」
「自転車を漕いでもらってるからそう思っただけだ」
そう言いながら、やはりデージーちゃんも喉が渇いたのかジュースを手に取ってレジに向かっていた。

「それくらいオレが払うよ」
「自分で払うからいい」
「それじゃあオレの男としての立場がないんだけどなぁ」
「……」
「ね?」
「…じゃあ、トイレに行ってくるからこのジュースは預けることにする」
素直じゃないなぁと思ったが、これが彼女なりの精一杯の表現なのだ。

「了解」
デージーちゃんがトイレに向かったのを確認し、急いで色々カゴに入れレジに向かった。


支払いを終え雑誌を立ち読みしデージーちゃんを待つ。

「待たせてすまない」
「待つってほどじゃないよ」

店員のやる気のない声を聞きながら、エアコンの涼しさに別れを告げた。


自転車のカゴに荷物を乗せ、飲み物を取り出す。
「デージーちゃんはこれ、好きなの?」
ジュースを手渡しながら聞いてみた。
「好きか嫌いかといえば好きだ」
「好きなんじゃん」
「そういう榛葉さんはどうなんだ?」
それ、と飲んでいるジュースを指差した。
「好きだよ」
「……」
「何?」
「いや…飲み物まで爽やかなものを選ぶんだな、と思っただけだ」
「美味しいからね。よし、そろそろ行こっか」
デージーちゃんがまたしがみついてくれるか期待を寄せながら再び自転車に跨った。
しかし期待とは反対に遠慮がちに跨り、シャツを掴むという最初の行動に戻った。

「危ないよ?」
と、今度はデージーちゃんの手を取り少し強引に腹に回した。

「…ところで、何をそんなに買ったんだ?」
「んー秘密」
そう言って再び自転車を漕ぎ出した。




暫く自転車を漕いでいたら、潮の匂いがした。生ぬるい風を切って、少しだけスピードを上げた。



「やっと着いたね」
「誰もいなさそうなんだが」
すっかり暗くなり、活気がない海を見て呟いた。
とりあえず自転車を降りて、海岸を歩く。
「無駄足じゃないか?」
「そうなるかと思って」
コンビニの袋に手を入れ、目的のものを掴む。
「これ、やんない?」
「線香花火?」
「そう。さっき買ったんだ」

線香花火が入っている袋の封を開け、同じくコンビニで買ったライターを袋の中から探し出した。

「はい」
デージーちゃんに線香花火を一本渡し、自分も一本持つ。先にデージーちゃんの方に火をつけ自分の方にも急いで火をつけた。

先端が丸くなり、火の玉が徐々に大きくなり激しい火花を散らす。

「なんか儚いよねぇ…線香花火見てると寂しくならない?」
「そうだな」
「打ち上げ花火とかも終わるとちょっと切なくなるし」
「あ、」
声を上げたのはデージーちゃんで、よく見ると少し火の玉が小さくなり消えかけていた。

「オレのあげるよ」
火の玉同士をくっつけ、デージーちゃんのほうに移す。
「……」
ずっと花火に向けられていたデージーちゃんの目線は火から離れ、一瞬こちらを向いた。
「…悔しい」
「なんで?」
「気を使ってもらってばかりで、悔しい」
「オレは自然と気を使うことが身についてるみたいだからそういう気は無いんだけど、余計なお世話だった?」
「いや、自分が何も出来ないのが悔しいんだ。榛葉さんが気にすることはない」
デージーちゃんは花火、と話を逸らせるように手を出した。
「今度は榛葉さんのより大きい火の玉にするから2本欲しいんだが」
「何それ反則じゃん」
「反則だろうと構わない。なんなら一束くれたっていい」
「はいはい」

結局2本渡し、オレは1本だけ持った。
先に2本に火をつけ、今度は少し時間を置いて自分の方に火をつけた。




──────────
ネタ:夏色
ネタ:セイクリッドセブン

長い!長いくせに流れが悪い!
終わらせ方が分からない!中途半端!
くそう…スランプくそう…

2011.08.30


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