∵ 届けもの

安キリ





「キリ、すまないが渡してきてくれないか?」

数分前、会長から一本のボールペンを託された。
会長席の机の引き出しの奥に入っていたらしい。
どうやらそれは前会長の物だそうで、忙しい会長の代わりに本人に届けることとなった。


三年の教室の前を見回しながら進む。
そういえば、前会長の顔をあまり覚えていない気がして目についた気の弱そうなヤツに声を掛ける。

「前会長は誰だ?」
「えっと、その…」
オドオドして返答の遅いそいつにイライラしているとそいつの視線がオレの後ろを捉えていることに気付く。

「おほっ」
ああ、コイツだったか

「確か新庶務の」
たまたま通り掛かったのか声を掛けられた。
「前会長ってのはアンタだよな?」
「ん?ああ、まあそうだけど。なんか用か?」
「引き出しに入っていたらしい」
ペンを突き出す。
「お、そんなとこにあったのか!ありがとな」
「別にアンタのためじゃない。会長のためだ」
「かっかっか。そうかそうか」
「じゃあな。もう用は済んだ」
振り返って歩き出した。
が、それはすぐに進めなくなり腕が掴まれたことが分かる。

「なんだ。気安く触るな」
「ありがとな」
「だからアンタのためじゃない」
「それでも、だ」

「…………」
「じゃあな。生徒会頑張れよ」
「サボってたアンタに言われたくない」

少し早足にその場を去った。
後ろで独特の笑い声が聞こえた気がした。




──────────
お互い気になり出すアガキリ。

2011.08.07


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