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01.世間知らず





誰も教えてくれなかったから。

知らなかったんだ、何も。

外の世界なんて。





「金なんて持ってねーよ。」


「普通はお店で買い物をする時はその場でお金を払うものよ。」



そんな普通の事すら、俺にとっては初めて知った事だった。

一目で分かる、呆れた視線を俺に向けるティア。

俺は悪くない、俺に教えなかった奴らが悪い、俺を閉じこめていた奴らが悪いんだ。

だから、そんな目で俺を見るな。


「…じゃあ、買い物の仕方を教えるわ…。」


そう言われたのは、本当に意外で。

一瞬聞き間違いかと思った。

いつも怒ってばかりのティア。

呆れたような溜め息をつきながらも、それでも教えてくれた。

普通の人にとって常識でも、それは俺にとっては学びだった。


『ありがとう』


なんて言葉、使った事は無かった。

俺に対して皆が尽くす事なんて当然だと思ってたから。

だけど外の世界は違って。

俺に尽くす奴なんて一人もいない。

ティアも同じ。

だけど、ティアだけが唯一の……。


「…ティア……あの、さ……」

「どうしたの?ルーク。」


『ありがとう』


どうしても口から出なかった。

たった一言なのに。


「何でもねぇ。」

「…そう?なら良いけれど。」





いつか、言える日が来るなら。

何度も言おう、溜め込んだ分。


『ありがとう』





01.世間知らず-end-





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