3 笑いながら話すイオンに、シンクは言い返すのを止めた。 自分が一番不幸だと思い込もうとしていた事に気付いたから。 「シンク。死後の世界では、皆に会えるのでしょう?」 「…さぁね。」 「でも、そこがどのような所かは分かりません。…真っ白な世界、真っ暗な世界。もしそれが闇の世界なら…同じ場所にいても、気付けないでしょうね…。」 「ああ、そんな事を考えてたから部屋中真っ暗だった訳ね。」 シンクは納得したように声をあげ、イオンは黙って頷いた。 「じゃあ、もう一度…試してみる?」 「え?」 突然のシンクの提案に、イオンが返事をする間もなく電気が消される。 再び訪れた闇。 「シンク…?」 返事がない静寂の中、イオンは手探りでシンクを探した。 時折机らしき物にぶつかりながら、手を必死に伸ばす。 「シンク…っ…」 不安で思わず相手の名を呼んだ時、イオンの手は何かに触れた。 先程と同じ感覚。 イオンが確認しようとする前に、その手は軽く握り返された。 「シンク…?」 見付けられた安心と同時に首を傾げる。 シンクがしっかりとイオンの手を握っていたから。 「…ほら、見つけられた。」 「え?」 「例え周りが見えなくても、手探りで進んで行く。同じ場所に居ると分かってるなら尚更。諦めずに手探りで進み続ければ、必ず見つかる。」 ゆっくりと手が離されると同時に、再び電気がついた。 「そうやって、ヒトは生きるものだろ?」 突然の光に対応し切れない視界ははっきりしなかったが、シンクが笑ったのを見た気がした。 「…無駄話が過ぎたね、僕はもう戻るよ。」 先程の書類を手にしたシンクは仮面をつけ、最初と同じように背を向ける。 「…シンク。」 「何?」 今度は振り向かないままの返事。 それでも、イオンは優しく微笑んだ。 「僕がもし死後の世界に行けたなら、必ず貴方を探しますよ。」 「…期待しないで待ってるよ。」 ――パタンッ 静かに閉じた扉を見つめてイオンは呟いた。 閉じた扉に背を預けてシンクは呟いた。 ありがとう――… -end- ← back |