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――コツンッ


何かが手に触れた。


この辺りには何もなかったはず、とイオンが考えている間に、突然電気が付いた。


暗闇に慣れた目は最初その光を拒んだが、段々慣れて来たのか視界がはっきりする。



「…シン…ク…?」


「こんな真っ暗な部屋で何してんのさ、導師。」


「あ、いえ…ちょっと……」


「…まぁ良いけど。書類、サイン宜しく。」



特に問い詰める事もしないシンクは、イオンの前に書類をヒラヒラと揺らす。


それを受け取ったイオンは、直ぐに机に置かれたペンでサインをする。



「…はい、書きましたよ。」


「どうも。じゃあ…」



用事が終われば直ぐに帰ろうとするのがいつものシンク。


出来るだけ自分と関わらないようにしているのだと、イオンも分かっていた。


そして、その理由も。



「あの…シンク!」


「…何?」


「少し、話しませんか?」



イオンの呼び掛けに頭だけ振り向いていたシンクは、扉から手を離した。



「シンクは、死後の世界ってあると思いますか?」


「…は?」


「死んだ者は皆そこへ行くのだと聞きました。」


「……」


「…レプリカは、皆と同じ場所に行けるのでしょうか。」


「喧嘩売ってんの?」


「貴方は僕と同じですから…。」



シンクは仮面を外し、同じ顔でイオンを睨みつける。


イオンにとっては、ああやっぱりと、推測が確証に変わっただけ。


それでも、シンクには皮肉としか聞こえなかった。



「アンタと僕は全然違う。意味がある存在と意味がない存在。これ以上の違いはある?」



自分を卑下した言い方に、イオンは表情を変えず微笑んだまま言った。



「シンク…良い名前ですね。」


「…は?」



話の噛み合っていない会話に呆然とするシンク。


構わずイオンは続けた。



「僕は、イオンの名を誉められても嬉しくありません。」



イオンが言いたい事、イオンはシンクが羨ましい。


自分の名を持ち、その名、その存在を認められたシンクが。



「馬鹿じゃないの?僕はアンタと違って出来損ないだ。」


「出来損ないなら、僕も同じでしょう?自分の名すら与えて貰えなかった。」





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