6 「…すー……」 書類に向かってペンを持ったまま、静かに寝息をたてるイオンだった。 「イオン様……」 疲れているのに無理をしていたのだろうと、心なしか胸が痛む。 アニスは起こさないようにそっと近付こうとしたが、浅い眠りだったらしいイオンの目はパチッと開いてしまった。 「アニス…?」 「あっ…えっと…おはようございます、イオン様。」 「あ、すみません。寝てしまっていたみたいですね。直ぐに書類終わらせますから……」 そう言って再びペンを走らせようとするイオン。 アニスは思わずイオンの腕を掴んで止めた。 「アニス?」 きょとんと不思議そうにアニスを見るイオン。 アニスはいつもの笑顔を向けて言った。 今日一日は、仕事を休んで良いそうです――… そうして二人で仕事をすっぽかして来たのは、ダアト教会の中庭。 アニスはゴロンと横になって、トクナガを枕にした。 「…本当に良かったのでしょうか…書類が沢山残っていましたが……」 「良いんですよぅ!珍しくモース様が気の利いた事を言って下さったんですし!」 「そう、ですね…。お言葉に甘えましょう。」 そう言ってアニスの隣に並んで横になるイオン。 ……そう、これがアニスの吐いた嘘。 隣で微笑む導師の為に吐いた、優しい嘘。 疲れの溜っていたイオンは、いつしか深い眠りに落ちていて。 その寝顔を見ながら、アニスも小さく微笑んだ。 「私もこんな嘘が吐けたんだなぁ〜。」 なんて、無意識に緩む頬に気付かないまま、アニスも深い眠りについた。 貴方の為の嘘は こんなにも心地よい ゆっくり休んで日が沈むまで寝た二人が戻ると、カンカンに怒ったモースがいて。 嘘だったと気付いたイオンは、やっぱり怒る事なく笑ってました。 -end- ←→ back |