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「…良いよ、分かった。」


「え…?」


「キス、してあげるよ。」



みるみるアリエッタの表情が嬉しさから笑顔になる。


と同時に、目的の主旨を思い出した。


そう、これは嘘のつもりだったのだ。



「えっ…あ……」



いつの間にか後頭部に手を回され、会議室の机に追い詰められ、僅かに机に当たった背がのけぞる形になっている。



「アリエッタ…目、閉じて…?」


「あ…あの…えっと……」


「早く閉じてよ…。それとも、キスしてる相手の顔を見たいの?野暮ってヤツだよ、それは……」


「ち、違っ…だから……」



日常の場でも自分の意見を言えないアリエッタは、嘘だったなどとは言えずに結局は口ごもる。



「…何が違うのさ、ほら早く……じゃないと、誰か来ちゃうよ…?」



いつの間にか密着した身体。


近付いた顔は、お互いの息が掛るほど。


怪しく笑うシンクの口許がゆっくりと近付き、アリエッタはぎゅっと目を瞑った。


しかし……


いつまで経っても何もされない。


不思議に思ったアリエッタは、恐る恐る目を開ける。


すると、目の前には必死に笑いを堪えたシンクの姿。



「…え……?」



状況が掴めず声を上げたアリエッタに気付いたシンクは、身体を離して収まらない笑いを零しながら書類を手にする。



「ばーか。エイプリルフール。」


「………あっ!」



そう。


騙そうとしていたアリエッタ側が、既にシンクの嘘の中にいたのだ。



「…し、シンク…っ!!」


「あー、面白かった。アンタって騙され易いね。」


「ひどい、です…っ!」



何事も無かったように書類を持って会議室から出ていったシンク。


シンクの言葉と行動は、何処までが嘘だったのか。


それは彼だけが知っている。



「シンクのばかーっ!!」





-end-





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