4 「…良いよ、分かった。」 「え…?」 「キス、してあげるよ。」 みるみるアリエッタの表情が嬉しさから笑顔になる。 と同時に、目的の主旨を思い出した。 そう、これは嘘のつもりだったのだ。 「えっ…あ……」 いつの間にか後頭部に手を回され、会議室の机に追い詰められ、僅かに机に当たった背がのけぞる形になっている。 「アリエッタ…目、閉じて…?」 「あ…あの…えっと……」 「早く閉じてよ…。それとも、キスしてる相手の顔を見たいの?野暮ってヤツだよ、それは……」 「ち、違っ…だから……」 日常の場でも自分の意見を言えないアリエッタは、嘘だったなどとは言えずに結局は口ごもる。 「…何が違うのさ、ほら早く……じゃないと、誰か来ちゃうよ…?」 いつの間にか密着した身体。 近付いた顔は、お互いの息が掛るほど。 怪しく笑うシンクの口許がゆっくりと近付き、アリエッタはぎゅっと目を瞑った。 しかし…… いつまで経っても何もされない。 不思議に思ったアリエッタは、恐る恐る目を開ける。 すると、目の前には必死に笑いを堪えたシンクの姿。 「…え……?」 状況が掴めず声を上げたアリエッタに気付いたシンクは、身体を離して収まらない笑いを零しながら書類を手にする。 「ばーか。エイプリルフール。」 「………あっ!」 そう。 騙そうとしていたアリエッタ側が、既にシンクの嘘の中にいたのだ。 「…し、シンク…っ!!」 「あー、面白かった。アンタって騙され易いね。」 「ひどい、です…っ!」 何事も無かったように書類を持って会議室から出ていったシンク。 シンクの言葉と行動は、何処までが嘘だったのか。 それは彼だけが知っている。 「シンクのばかーっ!!」 -end- ←→ back |