1 「ふんふんふ〜ん…っ…」 アニスは鼻唄を歌いながら歩いていた。 機嫌が良いようだ。 その理由とは…… 「今日はエイプリルフール!」 誰もいない廊下で一人叫ぶアニス。 「…っとと…アイツに聞かれたらまずいまずい……」 慌てて口を塞ぐと、何やらアニスは1つの袋を持ってスキップしながら廊下を進んだ。 …辿り着いたのはシンクの部屋。 「ふふ…作戦開始〜っ!!」 怪しげな笑みを浮かべながら扉をノックする。 ――コンコンッ 「…誰?」 直ぐに返って来た彼の声に思わず表情が緩む。 「アニスちゃんだよ!」 「…なんだ、アンタか。」 面倒そうに言いながらも、扉を開けてくれる。 「お邪魔しまーす!」 慣れた足取りで中に入ると、書類が積まれた机の前に座る。 これはシンクが仕事に戻れなくする為の作戦。 「…はぁ……何か用なんだろ?手短に宜しく。僕は暇じゃないんだ……」 アニスの行動には、仕事をするのを諦めてソファに座るシンク。 「えへへ〜……今日は何の日か知ってる?」 「今日?…さぁ。何か重要な任務でもあったかな……」 この仕事馬鹿、とアニスは思った。 「今日はね、恋人の日よ!」 「…は?何それ。」 案の定、気の抜けた声で聞き返してくるシンク。 もちろん全くのデタラメだが、何も知らないシンクは信じ込んでいる様子。 「恋人の日って言うのはね、男と女が愛を確かめ合う日で…女が作って来たクッキーを、男が…えっと……口移しで女にも食べさせるのよ!」 顔を真っ赤にしながら断言したアニスは、袋をバッと差し出した。 中身はもちろんクッキー。 しかも大量。 此処で慌てて嫌がり、恥ずかしがるシンクをからかうのがアニスの予定であったが…… 「…分かった。」 「へ?」 「口移しで食べさせれば良いんだろ?」 「え、やるの?」 「やりに来たんだろ?」 予想外の展開。 シンクは既にクッキーを口に含んでいる。 そしてアニスにゆっくりと近付く。 仕方なくアニスが覚悟を決めて瞳を固く閉じた時… _ ←→ back |