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―こんな世界うんざりだよ。みんな滅びてしまえばいいんだ。―



預言

レプリカ

導師


全てが嫌だった。

自分という存在も

預言なんていう存在も

みんな、大嫌いだった。


「こんな世界うんざりだよ、みんな滅びてしまえばいいんだ。」


その言葉に偽りはない。

本当にうんざりして


滅ぼしたいと思った。


ただ、何でだろうね。

アンタの……アニスの存在だけは、消したくないと思ったんだ…。


いつも鬱陶しいほどに脳天気で

導師守護役なんかで

『イオン様』

って煩くて

僕はアニスが嫌いだった。


だけど一度だけ見た、本当のアニス。

両親を人質にされて、イオンを騙し続けて。

偶然見てしまった、声を押し殺して泣くアニス。


『この事、誰にも言わないで!』


なんて必死に頼むから頷いたけど


『今日は泣かないの?』


そう毎日聞くのが、楽しかった。

今思えば、自分だけが知ってる事が嬉しかったんだ。


それなのに、この戦場でアニスは泣いて必死に叫んで来る。


「もう止めて!」


本当は泣き虫って、僕だけが知ってたのに。

少し悔しくて、こんな状況でもアニスに話し掛けてやる。


「アニス、今日は泣いたんだ。」


でもアニスは


「アンタの為に泣いてんでしょ!!」


だって。

意味が分からない。


「何で僕の為なのさ。」


思わず戦いの手を止めて聞いたら


「アンタが苦しんで泣かなかった分、アンタが溜め込んだ分、アンタが私の傍に居てくれた分、泣いてあげてるの!」


そんな事を言われたら、アンタを倒せなくなるだろ。


「…アニス、もういいよ。」


僕はルークに向かって歩いた。


「もう、いいんだ…ありがとう。」


戸惑うルークの剣を、躊躇うことなく自分の胸に突き刺した。


「いやぁ――…っ!!」


最後に聞こえたのは、アニスの悲鳴。

だって、仕方ないだろ?

僕の行動で、少しでもアンタが救われてたなんて知ったから…

アンタが、僕の為に泣いてくれたから…

生きて欲しいって思ったんだ。


紅く染まりし夕暮れに、緋色の風が流れた。

それは幾つもの想いと、幾つもの涙を抱いて

少女はまた涙する。


貴方の分まで泣いて、貴方の分まで生きるから、と。





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