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10.消える自由





死にたいって、何度思った事だろう。


「シンク…!!」


アニスの叫び声は何処か痛々しくて、辛そうで。

何でそんな表情をするのか分からなかった。


「シンク…お前……まだ自分が空っぽだなんて言うのかよ!!」


当然だろ?

必要とされたレプリカには分からないだろうけど。


「お前は…お前って存在は……」

「煩いよ。」


レプリカの言葉を遮ったのは、変わる事の無い結果を早く受け止めたくて。





「…弱いね。」


倒れたレプリカ共の中心で、僕は空を見上げた。

この空は…嫌いじゃなかったな…。

いつもいつも、木の上から見上げていたから。

何処から見ても、上に在って。

何処から手を伸ばしても、届かなくて。


「…馬鹿みたいだ。」


自嘲気味に呟くと、僕は一番近くに倒れていた女を見下ろした。

ヴァンの妹か…。

今やヴァンにとってすら、コイツの生死はどうでも良い。

それだけ追い詰められている。


「悪いけど、アンタ達全員、此処で死んで貰うよ。」

「ティア…!!」


レプリカの必死な声を無視し、既に意識が朦朧とした様子の女に拳を振り上げた。





「シンク…っ!!もう止めてぇ――…!!!!」





高く響き渡った声に、僕の手が一瞬止まる。

今のは……



――ザクッ



一瞬…一瞬気を取られている間。

後ろから走って来たレプリカの剣が、僕の腹部に刺さった。


「…か…は…っ…」


口から吐き出す血。

腹部に刺さったままの剣すら無視し、僕は振り返った。

…アニス。

さっきの声は、アニスだったんだ。

何か懐かしい声だと思ったんだけど。

足が力を失い倒れる時、不思議な程ゆっくりに思えた。

痛みは感じなかった。


「シンク…!!」


力尽きて膝を付くレプリカ達の中から、アニスが駆け寄って来るのが分かった。


「シンク…!!」


そうか…コイツとは、暫くダアトで一緒だったから…


「…シンクの…馬鹿…っ」

「…知っ…て…る…。」


少し、ほんの少し、望んでた事があったけど、もう、忘れた。

何だったかな…。

…ああ、やっと楽になれる。

生きたいと思える世界は、遂に出来なかったな。

――後は任せたよ。

ヴァン――…





10.消える自由-end-





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