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08.晒した顔





「シンク…お前……」



リグレットは、僕の顔を見て躊躇いがちに言葉を発した。



「いいだろ、別に。本物の導師も、あのレプリカの導師も居なくなったんだ。」


「だが……」


「今この顔を持っているのは、僕だけなんだ。それに…あの煩い元導師守護役もいなくなってくれたからね。」


「…そんな言い方は無いだろう。」


「いや、僕にとってはそうだよ。アイツの言葉に、何度苛々させられた事か。」



『イオン』の名が出る度に、仮面の下で僕の表情は歪んだ。

それが、仲間内の一人である事自体僕にとって不愉快な事だったのに。

更に彼女は、元導師守護役だと。

気付かれないよう、目立った行為も出来なかったし、何より……


『イオン様が……』


何度も何度も口にされるその名が、許せなかった。


「仇だ、なんてさ。馬鹿だよね。本物の導師はとうの昔に死んでるって言うのに。」


偽物だと知る事なく、彼女は偽物の導師の為に命を懸けて戦い、負けたのだ。


「馬鹿だよ、本当に。」


それでも、命を懸けて貰える程の存在だったのだろうか、アイツは。

アイツを裏切った本人でさえ、涙を流して。

友情ごっこをしていた、あのレプリカルーク共にも涙を流して貰って。

それは、アイツが生きた証になったのだろうか。


「…くだらない。」


僕は踵を返してリグレットに背を向けた。


「…シンク。」

「…何。」

「私はきっと、お前が死んだら泣くだろう。」


僕は足を止め、何も答えられなかった。

それを、嬉しいと感じてしまった事が信じられなくて。


「……ははっ…それはどうも。」


漸く言葉になったのは、相変わらずの捻くれた答えで。

でも……


「僕も…アンタが死んだら、泣いてあげるよ。」

「そうか……」


優しい口調で呟いたリグレットは、それ以上何も言わなかった。





少しでも素直になれたなら。

世界は変わるのかもしれない。





08.晒した顔-end-





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