1








01.レプリカと言う代わり





ヴァンに救われて数日。

段々と言葉を覚えて。

この世界の事も、本で沢山勉強して。

それでも部屋から出して貰えなかった。

そして、自分が何者かも知らなかった。

本には載ってないし、誰も教えてくれなかったから。

ある日。


「…これは、お前が少しでも導師に近付けるよう…お前の力を引き出せる魔法だ。」


そう言われて、胸に刻まれた印。


『導師により近付く程、お前の価値が出来るんだ』


そうヴァンに言われたのを思い出して、僕は喜んだ。

『導師』と言う仕事がどんなものかは知らないけど、僕にとってヴァンの言葉が全てだったから。


翌日、初めてヴァン以外の訪問者が来た。

素直に嬉しかった。

それが誰かも分からないまま。

話し掛けようと駆け寄ると、ソイツの表情が怒りに歪んだのが分かって一歩後ずさった。


「ヴァン。もしかしてコイツ、何も知らないの?」

「何も話していませんから。」

「それにしても、僕の顔を見たら何か別の反応ないの?」

「この者はまだ、自分の顔すら知りません。」

「ハハッ…成程ね。」


ヴァンと話していたソイツは此方を向いて、僕の胸ぐらを掴んだ。


「……っ…」


呼吸がし難くなって苦しかったけど、それを表す言葉を知らなかった。

だから、ただ苦痛に顔を歪めた。


「へぇ…呪印はもう付けたんだ。」


不気味に笑ったソイツは、僕から手を離す。

力を失いその場に倒れ込むと、それを見下ろすように僕の前に屈んで


「良い事を教えてやるよ。」


ソイツは低く、冷たく呟いた。


「お前は僕の影なんだ…いや、影にすらなれなかった出来損ない…お前が光を浴びる権利はないんだよ。」

「…導師…っ」

「ヴァン。お前はコイツを助けてどうする気?こんな屑、何の役にも立たないよ。」

「…あの中で、体力は一番です。」

「ああ…そう言えば七番目は体力が劣化してるらしいね。コイツは…五番か。」


再び不気味に笑ったその人は、僕の前に薄い何かを出した。


「これは『鏡』…お前の顔が見れるよ。」

「導師…!」


ヴァンの声を耳にしながらも、僕は初めて見る『鏡』に惹かれて覗き込んだ。



ソイツと同じ顔が映っていた。





01.レプリカと言う代わり-end-





back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -