4 04.君は気付くだろうか 「では、計画は実行と言うことで…本当によろしいのですね?」 「…ああ。」 僕が頷いたのを確認すると、研究者は一枚の紙を渡して去っていった。 紙には、仕組みだとか方法だとか。 失敗率と成功率。 …失敗率の方が高いが、死の予告を受けた僕にはあまり関係がない。 最近はもう、長い間外を歩き回る事すら出来ない。 「…導師よ。そこまでして、『イオン』と言う存在を遺したいのですか?」 「ヴァン、アンタも白々しいんじゃない?分かってるくせに。」 「…いやいや、何のことだか私にはさっぱり…。」 「…まぁ良いよ。だけどヴァン、これだけは言っておく。最近アンタが影でコソコソと何をしてるのかは知らない。でも、彼女を巻き込む事だけは許さない。」 「彼女とは…?」 「…アンタのウザさ、本当に褒めたくなるよ。」 「私には何のことやら…。」 そうやって昨日、僕は決めた。 『僕』ではなく、『イオン』と言う存在をこの世に遺す事。 それが、預言への最後の悪足掻き。 自分には出来なかった事を『偽物』に託す。 正直、自分をもう一人造るなんて、想像出来ないけど。 「イオン様。お仕事終わった、ですか?」 「ああ、アリエッタ…うん、終わったよ。」 もう1つ理由を述べるなら、彼女。 きっと僕がいなくなったら寂しがる。 …『僕』がいなくなって悲しむのは、彼女くらいだしね。 それでも彼女は…気付かないだろう。 いつもと変わらない声で「イオン様、イオン様」って、僕じゃない『イオン』に話し掛けるんだ。 それを思うだけで、悔しくて、歯がゆくて。 とても悲しくなる。 だけど、君の泣き顔は見たくないから。 「イオン様とお外、久しぶり、です!!」 「…そうだね。でも、ごめん。直ぐに部屋に戻らなきゃいけないんだ…。」 「…そう、ですか…。」 「ほら、部屋に来て良いから。ね?」 「…っはい!!イオン様、具合悪いから我慢するです。」 「ありがとう、アリエッタ…。」 「イオン様が元気になったら、また遊びたい、ですっ。」 「…そう…。」 「そう、です!」 「うん…。」 気付いて欲しい。 気付いて欲しくない。 心の呟きは、風と共に。 04.君は気付くだろうか-end- ←→ back |