3 03.大切な人 僕の頑張りもあって、彼女は基本的な言葉を殆んど覚えた。 最初の頃は、僕の名前すら言えなかった彼女。 イヨンさまだとか、 イニョンさまだとか、 イウォンさまだとか。 今となっては 「イオン様、イオン様」 と、僕を追い掛け回している。 我ながら仕事と両立、頑張ったと思う。 問題はまだまだ多々有るが…。 「イオン様、イオン様。」 「何?」 「アリエッタも、イオン様と同じ服がいい。」 「…これは導師専用の服だから、アリエッタは駄目だよ。…それより、この前教えた敬語はどうしたの?」 「あ…う…ごめんなさい、です…。」 今困っているのはこれだ。 彼女は敬語などの、言葉の使い分けが分からない。 取り敢えず分からない場合は意思表示として「です」や「ます」を語尾に付けろと教えてやったら、それが定着してしまう始末。 これには本当に頭を悩ませている。 何しろ彼女の育った魔物世界の上下関係は、行動で表すものだった。 だから言葉で上下関係を示すなど、彼女にとっては意味不明なのだろう。 ――そして、もう1つの困った事…。 「イオン様、イオン様。」 「何?」 「またオトモダチ連れて来たの!」 そう言った彼女の後ろを見ると、案の定魔物の集団。 初めてこいつらを連れて来られた時は、一瞬気が遠くなった。 しかし今は…… 「アリエッタ、中に入れたら駄目って言っただろ?毛が散るし、足跡まで綺麗に付けて……掃除が大変になるから、早く外に連れて帰って。」 「はい…ごめんなさい、です…。」 所帯じみて来ているのが自分でも良く分かる。 って言うか、良くあの魔物達は誰にも殺されずに此処まで来たな…。 もしかして逆に殺……いや、考えるのはよそう…。 とにかく、僕の気苦労は絶える事がないのだ。 仕事の問題に、彼女の問題が加わって。 それでも、彼女を他人に預けたくはない。 それは彼女が僕に、『疲れ』以外の『何か』を与えてくれているからなのだろうか。 いつの間にか彼女の存在が、僕の心を半分以上占めていて…… 彼女を失いたくない。 彼女を『大切』だと思ったんだ。 いつまで一緒にいてあげられるだろう…。 僕の大切なヒト。 03.大切な人-end- ←→ back |