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02.君を置いて逝く僕





「…残念ですが…今の医学では、もう……」

「そう……やっぱり預言通り、か…。」

「導師イオン、例の計画は……」

「もう少し、考えさせて。」


そう言って僕は研究所を出た。

今のは、ただの死の宣告。

そう『ただの』。

大分前から分かっていたのだから、驚きなんてない。

ただ、

『ああ、やっぱりか』

って言う気持ちと、

何かが抜け落ちたような虚無感。


「……っ…何で僕が…!!」


握った拳を、力一杯壁に叩き付ける。


「どうして…っ!!」


血が出るのも、痛みも無視して。


「どうして僕なんだ…!!」


生まれた時から預言に従って導師にされた。

地位で動かせないものは無かった。

でも、いつも何かが足りなくて。

満足なんて出来なかった。


「…くそ…っ…」


やり場のない怒りを内に込めて、僕はずるずるとその場に座り込んだ。


胸が痛い。

呼吸が辛い。

口が渇く。


ははっ…これも僕の体が滅ぶまでの、カウントダウンか……。


「…イオン…さま…?」


今や聞き慣れた少女の声。


「…アリエッタ…?」


ゆっくりと振り返れば、慌てて駆け寄って来ている彼女がいた。


「イオンさま…っ…大丈夫?具合、悪いです…?」


心配そうな瞳が僕の顔を覗き込む。


「どうしよう…どうしよう…っ。イオンさま、具合悪いの…どうしよう…!!」


泣きそうな顔でパニックを起こす少女。

馬鹿みたい、これくらいで取り乱して。

まだまだ勉強が足りないのかな。


「…もう大丈夫だよ、アリエッタ。大分落ち着いたから。」


事実、さっきより体調は落ち着いていた。

気分は晴れなくても。

だけど彼女はそれを許さなくて。


「だめ!!イオンさま、つらい顔!!どうすればよくなる?アリエッタ、そばにいるよ?」


すべき事が思い付かなかったのか、アリエッタはぎゅっと僕の腕にしがみついた。


本当に馬鹿。

そんなんで治る訳が無いのに。

だけど、不思議だね。

心が少し、温かい。


「アリエッタ。この程度でそんなんじゃ、僕が死んだらどうするのさ。」

「イオンさまは死なない、です。」

「ははっ…何それ。」

やっぱり、泣くんだろうね。





02.君を置いて逝く僕-end-





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