1 01.導師と導師守護役 正直、第一印象はあまり良いものではなかった。 「イオン様、如何致しましょう…。この娘、言葉も通じません…。」 神官が困ったように僕を見る。 僕に一体どんな答えを期待しているのやら。 「…困ったね。魔物と会話出来たって、人間の言葉が喋れなきゃ意味がない。無理に連れて来たのは失敗だったかな。」 初めて君に惹かれたのは、その強い瞳だった。 「部屋に閉じ込めて、無理矢理にでも覚えさせますか?」 誰も寄せ付けようとしない、警戒を露にした獣の目。 「確かに…無理矢理だったとしても、何度も聞かせれば、嫌でも覚えるだろうね。」 それが何処か自分と重なって見えて。 「分かりました。では…さぁ、此方へ来なさ…痛っ……この娘…っ!!」 少女は無理矢理に連れて行こうとした神官の手を噛んだ。 逆上し、思わず腕を振り上げる神官。 少女はビクリと肩を揺らす。 「……止めた。」 無意識に動いた僕の口は、言葉を発していた。 我に返った神官も、手を止めて僕を見る。 「は…?それはどう言う……」 「この娘は、僕が育てるよ。」 未だ警戒した様子の少女に、目線を合わせる為に屈んでやる。 子供と話す時に良いと聞いた。 「し、しかしイオン様は他に仕事が…!!」 「ちゃんと仕事もするよ。合間に面倒を見る。それとも何?文句でもあるの?この導師に。」 こう言う時には便利と思えるこの地位。 「い、いえ…。」 押し黙った神官を一瞥してから、再び少女に視線を合わせる。 「えっと…ああ、まだ名前が無いのか。そうだな……アリエッタ…君の名前はアリエッタ。分かった?」 僕の問掛けが分かっているのか分かっていないのか、きょとんとした目を僕に向けている。 「アリ…エッタ…?」 初めて発した『コトバ』。 「そうだよ、アリエッタ。僕の名前はイオン。」 「イ……オン…。」 「そうそう。良く言えたね。」 たどたどしい発音で言われた僕の名前。 言葉は分からなくても誉められたのが分かったのか、少女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。 「…おいで、アリエッタ。僕と行こう?」 少女に手を差し述べる。 「これからは僕が一緒に居てあげる。」 01.導師と導師守護役-end- ←→ back |