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「ねぇ、アリエッタ。」

「…はい?」

「トリックオアトリート。」

「…え…」

「ほら、お菓子頂戴よ。」

「え、でも…アリエッタ、お菓子持ってない…です…あ、部屋になら!」

「今すぐ。悪戯するよ?」

「で、でも……」


アリエッタが懐をどんなに探ろうと無い物は無いのだ。

焦るアリエッタを見て、シンクは小さく笑った。

それはとても企みを含んだ笑いで……


「…あるじゃん、お菓子。」

「え、何処に…?」

「此処に。」


その言葉と同時に、アリエッタの視界は一面緑色になる。

とっさに退こうとも、アリエッタが逃げられないようシンクの手が後頭部に回されており、既にシンクの唇が触れた後だった。


「し、しん…く…っ…」


舌まで侵入させてくるその口付けは深く、時折開く小さな隙間から途切れ途切れの声を発するのが限界だった。

数秒の出来事が、その何倍にも感じられた。


漸く離れた彼の唇に安堵の息を零すと同時に、アリエッタはズルズルとその場に座り込む。


「シンク…いきなり……」


真っ赤になった顔は、酸欠のせいだけでは無いだろう。

と、此処でアリエッタは顔を上げる。


――コロンッ


シンクの口元から何かが転がる音がするのだ。


「あれ…?」


自分の口内を舌で探ってみるが、先ほどまで自分が舐めていた飴玉が見当たらない。


「確かに、お菓子は頂戴したよ。」


口元に綺麗な弧を描いた彼は、くるりとそのまま去って行ってしまった。


「……!またやられた…です…っ」


真っ赤になったまま悔しさに唸るアリエッタ。





お菓子を手に入れると同時に悪戯をもやらかした彼に、アリエッタが勝てる日は来るのだろうか…。





-end-





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