4 『…アニス……』 ふわ…っ 優しく吹いた風は、少女の黒髪を揺らす。 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた少女は、大きな目を更に大きく見開く。 「…イオン…様……?」 少女は石に向かって話し掛けていた。 しかし今、確かに、少女の前には彼がいる。 「イオン……さまぁ……」 見る見る溢れ返った少女の涙は、止まる事を知らない。 頬を伝い、そのまま服に染みを作る。 「イオン様…ごめんなさい、ごめんなさい…っ」 夢でもいいから 幻でもいいから 目の前にいるあの人に 許して貰いたい 少年は、ゆっくりと少女の前に屈んで 『アニス……』 そして、笑った。 『笑って下さい』 見たかった彼の笑顔は、こんな直ぐ側に在って。 彼が求めたのは、謝罪なんかじゃなく、涙なんかでもなく。 少女の笑顔だった。 _ ←→ back |