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ダアト近くの丘。


ひっそりと並んだ大きな石が三つ。


前に置かれている花から、これが誰かの墓だと言う事が窺える。


しかし、どの石にも名前が彫られていない。


名前を出す事の許されない者たちの墓。





そこに毎日やって来るのは、一人の少女。


毎日毎日、舗装されていない道を歩き、坂を登り、ここへやって来る。


その手には、綺麗な花が握られていて。





少女は少し乱れた息を調えながら、ゆっくりと石の前に膝を付く。


一番端にある石に向かい



「…イオン様……」



と呟いた。


風になびく黒髪を耳に掛けると、少女は花を一本添える。



「これ、イオン様が綺麗だって言ってたお花…」



一人石に向かって話し続ける少女は、悲しみを含んだ笑顔で。



「イオン様…あたし、この場所が大好きだったの。」



冷たいだけの石を、愛おしそうに優しく撫でる。



「人間なんて、ちっぽけだって…思い知らされるから。……でもね、イオン様と出逢ってからは、全然来なくなったの。人間って、凄いって思えるようになったから。」



石はダアトに向いていた。



「…だけどやっぱり、この場所好きかも。人を見渡せる場所、安心出来るから。私は独りなんかじゃないって。みんないるんだって。…イオン様は、どう?」



当然返事は来ない。


だが、それでも少女は言葉を止めない。



「そう言えばね、フローリアン…凄く頭良くなったんだよ。たまに、私も知らないような事知ってて。」



そう言葉を紡いでから、少女の口元がきゅっと強く結ばれた。



「…あはは、イオン様の前でこんな話、失礼…かな。」



座り込んだ少女は、膝を抱えるようにして言葉を止めた。



「イオン様…返事、して欲しいよ……いつもみたいに、笑って……」



震えだした声。


隙間から見える顔は、涙で溢れていた。





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