今日は一馬と久しぶりに出掛ける。

カラオケに行こうかということになった。

個室に入って隣に座る。
隣といってもくっついているわけじゃなくて、近くもなく遠くもなく、微妙な距離がある。
薄暗い部屋。
一馬といるから煙草のにおいも気にならないし、どうあろうとかまわない。
ただ横並びで座った時に出来た距離感が、私を無性にどきどきさせている。


「一馬、先に入れてよー」
「あ、うん」
「はい、デンモク」
「さんきゅ」


一馬が歌って私が歌って、また一馬が歌って私が歌った。
歌い終わって予約曲リストを見ると、同じ曲が二回入っている。


「あはは、一馬入れるの失敗しちゃった?」
「っぽいな」
「じゃーひとつ消そうか」


デンモクを手にとって、操作をしようとタッチペンを握る。


「・・・あの、さ」
「え?」


手を掴まれた。
同時に曲が始まった。

横を向くと目が合う。

一馬と見つめ合う。
一度目をそらして唇を見て、視線をまた目に戻した。

キスしていい?
聞こえる音楽にかき消されそうな声で、一馬が言った。

弱い光に照らされた一馬の顔。
ひく、とふるえた唇。
触れた。

一馬が握る手首が熱い。
ただキスをしただけなのに、よろけそうになるほど恥ずかしくて、嬉しかった。



数日前の放課後、一馬のクラスの前を通ろうとした時のことを思い出した。

今日の欠席って真田くんだけだよねー?
うん、そうじゃない?
話し声が聞こえ、名前に反応して体が止まった。
一馬のクラスの子たちは、日誌を書いていたらしい。
その日確かに一馬は遠征で学校に来ていなかった。

真田くんって一組の子と付き合ってるんでしょ
あー、あの清楚そうな子?
ああいう子が好みなのかなー

一組の子、つまり私だ。
噂されてる最中に廊下を通るのは気が引けて、遠回りすることにした。


一馬の好みが清楚系なら、そういう子であろうと努力するだろうけど、別に私は芯から清楚な訳じゃない。
一馬とであれば何でもしたいと思っている。
何でもできる。はずだ。




何でもできると思っていた。
それは確かに本当だ。
でも、一馬に触れるだけで動けなくなる。
好き、一馬が。

一馬が唇を離す。

一馬の入れた曲は、メロディーだけ奏でられている。

あなたがとても美しく微笑むことが出来るのを知っている

ちらりと見た画面上では、歌詞が流れていた。
一馬って、こういう曲も聴くんだなあ。

またキスをする。
思わず口をちょっと開くと、さっきより深く触れ合った。


めまいがしそうなくらい熱くて、思わず離れた。

一馬を見る。緩く閉じていた口元を、きゅっと固く結んだ。


「かずま」
「ん」
「すき、です」


私はまだ何もできない。
恥じらう気持ちは、一馬以上に私にあった。


アンドロメダ
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