『恥の多い生涯を送ってきました、約三年前まで。自分には、本能に忠実でない人間の生活というものが、皆目見当つかないのです。』




とか、今から10分全力で懺悔したら、ああ神様、あのベクトルはまさか俺に向かってまっすぐ伸びてくるのでしょうか。









「ねーえ、みかみん」

「あ?」

「なかなかどうしてあの子は俺を愛してくれなかったのかなあ」

「ハ!」

「略奪愛とかアリかな、や、の前に無理だわ無理無理告白て無理無理」

「笑うわ」

「ねぇ俺の顔わるくないよね、ね!」

「はははは「そうだよ俺はイケメンなんだ、なのになんでなの教えてイケメン」やめろよ…照れるだろ…」

「だれうま」



春夏秋冬、三度繰り返して残された時間はあと10分。涙とさよならと笑顔とありがとうとその他いろいろごちゃまぜになった空間で大変申し訳ないが正直俺はそれどころじゃない。
少しだけ傾き気味に胸へはっつけられた卒業の花は柔らかな日溜まりのこぼれ落ちる窓から吹き込む風にそよいでいて。お陰で速度を増した記憶の滑車はくるくると、これまでの青すぎた春の記憶を凄まじい速さで再生していく。思い返してみれば高校三年間、きみに恋をして、きみが恋をして。ただひたすらみつめているだけの青春だったけど、幸せだった。幸せそうなきみを見るのはそれなりにつらかったけど。



「青春とはかくも甘く、切ないものであった…」

「え、なに、自棄?」

「やーなんかもう、青春なんて、苦しいばっかだなあって」

「うは!ウケる!」

「ひどいねおまえ」

「乙女かと」

「いやおまえほんとひでえわマジ」

「いやぁマジに惚れた女に告れもしねえヘタレには言われたくないなあ」

「ええもうなんなの泣くよおい」

「おまえはほんとにバカだよ」

「うるさいよ…」



そりゃあ、この類い希なる顔面構造の秀麗さを首尾良く利用して、さらっと月が綺麗ですねとかってひとこときみに言えたらよかったんだろうけど、そもそもそんな勇気どこ捻ってみたってあるはずもない。そらそうだ、だってヘタレだ。なんとなくバツがわるくて視線を横に逸らすと、ひらひらと桜の花びらが風に誘われ舞うのが見えた。ああそういえば確か、



「ね、みかみん、一緒に桜の花びら、捕まえにいかない」

「はァ?」

「桜の花びらは三枚集めると願い事を叶えてくれるんだよ」

「なんだよギャルのパンティが欲しいのかおまえは」

「ちげーよ」

「つうか散った桜に願掛けって縁起わるいだろ」

「地面に落ちる前の舞ってる桜を捕まえるんだよ、全くみかみんはほんとに夢がないなあそんなんだから、」

「卒業かあ…」



春の風はシアワセを運ぶんだ。そらそうだ、春だ。



「早かったなあ、三年間」

「もっとみんなでバスケ、したかったなあ」

「あ〜…」

「さみしいなあ」




ふいにもたれかかった窓の外から聴こえる少しだけ掠れた笑い声に、刺激がシナプスを駆け抜けるよりも早く口角が上がるのを感じた。その、なんていうかええと、いきなり喋られると俺の電子伝達系がショートしてしまうので云々…とは言ってみてもきみはその空気の振動が、まさかこの世の60億の誰より俺を幸せにするなんて知るはずもないだろうけど。ああもうなんていうか、いっそ俺の頭かち割って俺がどれだけきみをすきなのか脳みそ掻き分けてどうぞ視てくれないか。そんなことでもなけりゃなけなしの恋心片手にみっともなくもひたむきに、まっすぐに俺がきみを想っていたこと、きみは決して知ることはないだろう?
それときっと今日が最後だからついでに言ってしまうと、きみのその愛のベクトルがあいつのベクトルと真逆の方向へ向かい合うようまっすぐに伸びていたこと、わかっちゃいたけどいざ目の当たりにすると想像以上にキツイんだ、わかるかい、俺のベクトルはあいつのベクトルなんかよりも早くきみまで届いていたはずなのに、きみはどうして気付いてくれなかったのかな、あ、だめだ泣きそう。



「あ、」



例え蚊の鳴くような小さなオトでも、きみの声なら無条件に探して響くこの耳がいまはなんだかものすごく憎い。きっといまのきみの声が、とても嬉しそうだったからだね。



「帰ろうか」

「うん」




それでも高校生活最後の30秒、やっぱりきみの姿をこの目に焼き付けておきたくて思わず振り返ってしまったけど、そう答えたきみのその声があまりにも幸せそうだったのでやるせないのとモヤモヤしたのといろいろで頭がわやくちゃになった。目玉があつくて溶けそうだったから思いっきり歯を食いしばったら鉄の味がした。それはあまり気にならなかったけど、ああどうやら案の定目玉は溶けてなくなってしまったらしい。けれど、ほぼ視界ゼロの世界はぐらぐらと歪んでいたのに、ガタガタの窓枠の向こうに見えるきみはなんだかきらきらしてた。

自慢じゃないが、俺は、きみがとても美しく微笑むことが出来るのを知っている。振り返らずとも瞼を下ろす、それだけで自由にそれを思い浮かべることが出来たのに、三年間何千何万回繰り返してきたその作業が、帰ろうか、そのひとこと、たったそれだけで情けないくらい簡単にひっくり返された。なんてこったあいつはその声だけできみを、そんなにも、きみを?


やっぱりだめだ耐えられない、ああ神様本当にいるのなら、





ヘルプ!
ふたりを引き裂きたい!









*****

「ふは、つら…」

「アー…おいそこの乙女野郎おまえはまず鼻水を拭け、全てはそれからだ」

「むり、とまんないめからもはなからも」

「そして靴を履き替えろ」

「…は?」

「ち、糞たるい」

「ふは、はは!…あーもー…おいおまえさあ頼むよ死ねよ…惚れるぞ」

「やめれ」

「三枚集まったらさ、みかみんのトランクスくれって叫ぶわ」

「ネタよな?」

「ははは!」


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