俺には、いわゆる双子の妹がいて、二卵性にも関わらずそいつは俺によく似ているらしい。中学生になった今は男女差が出てきてそれほどでもないけれど、昔のアルバムをめくれば嘘みたいにそっくりな俺と妹が、揃ってロボットみたいな無表情で写っていたから嘘ではないんだろう。真っ黒な色彩の髪だとか、言葉が少ないところとか、表情のない顔だとか。双子でどちらかがどちらかに似るなんてそんな筈ないけれど。でもまあ、ほんの少しだけ俺の方がはやく産まれたらしいから。俺が兄と呼ばれているから。きっと妹が俺に似たのだろう。

俺とよく似た顔をしたそいつは、今、俺とおんなじ真っ黒い瞳をしてこちらを見つめている。温度のない顔を見てこいつ表情筋固まっちゃってるんじゃないの、と失礼なことを思う。圭介に「ロボットみたい」と揶揄された俺が言えた義理じゃないが。そして妹の黒々としたその瞳の中には、相変わらず仏頂面の自分が映っていた。……もしかしたらこれ俺も表情筋固まっちゃってるんじゃないの。まじこいつのこと言えた義理じゃないわ。


「ねえ、平馬」
「何」
「いきなりだけど、お願いがある」


明日の試合、連れていって。なんて。いきなりそう申し出た妹になんでかなんて無粋なことは聞かない。静かな声、短い言葉で簡潔に会話をする癖。喋るのが億劫だからと普段あまり口を開かない妹がこんなに長い単語を発することはない。
だけど俺は理由を知っているから。そしておんなじ顔をしているが、そして俺そっくりな無表情ではあるが、それでも可愛い妹にそんな真摯にお願いされてしまったら。俺には断ることなんてできない。


「……圭介?」
「そう。お願い、平馬」


やっぱり俺たちは双子だから、顔だけじゃなく興味を引くものまで似るらしい。顔だけじゃなく性格までそっくりな俺たちは基本、他人に興味がない。どちらかと言うと団体行動が苦手で人の輪から外れたがる。男である俺はいいけれど女である妹はそこのとこどうなんだろうか。まあ、少数ではあるが友人がいるらしいので上手くやっているんだろう。
とにかく。そんな俺が初めて興味を持ったものはサッカーで興味を持った人間は山口圭介。
そして、そんな妹が初めて興味を持ったものはサッカーで興味を持った人間は山口圭介。

俺は純粋に俺より上手いプレイヤーを初めてみたから興味を持ったのだが、妹はそうじゃないらしい。いや、たぶん最初はそうだったのだろうけど、途中でその興味は別の感情へ昇華されてしまったようだ。俺の興味が友情になったように、妹の興味は、恋に。



「明日1日お兄ちゃんって呼んでくれたらいいよ」
「馬鹿じゃない」


冗談めかして茶化す俺に拗ねたような視線を送ってきたが(しかしまあ表情にミクロ単位でしか変化はない)、双子のシンパシーと云うかなんと云うか。俺の目を見た瞬間に、俺の考えをすっかり見通してしまったらしい。


「ありがと」


そう言って。妹は笑顔を俺に見せた。
他人からみたら普段と変わらない無表情なのだろうけど、ほんの少しだけ目尻を下げて。口角をあげて。柔らかに、心底嬉しそうに。俺はお前がとても美しく微笑むことが出来るのを知っている。

とある愛のはなし

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