小話 | ナノ


 戦闘シーン1



目標捕捉…約距離800m。数3。」
通信機から聞こえる声は酷く無機質だった。まるで機械と同化してしまったように。
「了解。ウィズレイはそのまま捕捉を続けろ。」
返事はない。が、彼のことだ、言われずともそうしているだろうし、そうすることが彼の存在意義なのだから。少なくも彼―イツァ・ウィズレイ自身はそう思っているようだ。
「まだダメなんすか?」
左側で声がする。普通の人間ならば声の主の表情が分かるだろうが自分は想像するしかない。
「……2時の方向の川岸に追い詰めるぞ。」
声の通りにしてやるのは何となく癪ではあるが、これが恐らく最善。機会を逸すれば追い詰められるのはこちらなのだから。
「了解。」
声が弾んでいるのは気のせいではないだろう。
「行ってきます。」
まるで、学校に行く子供のように言って歩き出す。
紅い髪が10m程先に進み、振り返った。
「どうした?」
何か忘れ物でもしたのかと思いさっきまで彼がいた辺りを探る。
「クラウスさんも気を付けて。」
「……んなこと言ってる暇があるならさっさと行って一人二人潰してこい。」

+++

流水音。
川までは後100mもない。
目標まではもっと近い。
情報通り3人。牛のような角を持った人物と、全身が鱗に被われた鰐を思わせる人物、そして、猫科動物の耳を持ったこちらは明らかに女性。
静かに呼吸を整えつつ、目的を反芻する。
自分一人で倒す必要はない。見通しのよい川岸に追い詰めればいいだけ。
猟犬の仕事は主の狩りを手伝うことであって自分自身が狩る必要はないのだから。
はぁと息を吐くと同時に走り出す。もう隠れる必要はないので全力疾走。
最初に目が合ったのは鰐。
爬虫類独特の瞳が驚愕を写す。
猫と牛が背を向け、川岸に向かって走り出す。向こうも見通しがよい方がいいと踏んだのだろう。もしくはただ追われたから逆方向に逃げただけか。どちらでも構わないが。
一瞬遅れて踵を返した鰐の背を追う。みるみる鱗が近づきもう剣先が触れる。
鰐が腰の短刀を抜き振り上げる。当たらないと分かっていての斬撃。こちらを怯ませる目的。振り上げられた短刀を更に上に打ち上げる。鰐の手から短刀が飛び出し鈍い音と共に木に突き刺さる。
二度目の驚愕には懇願も含まれていた。その色を振り切るように剣を薙ぐ。噎せるような鉄の香り。崩れ落ちた体をせめて足蹴にしないように飛び越え残り二人を追う。
前方の猫の体が川岸との境に出た瞬間彼女の姿は消えた。
否、彼女の残骸はまだ残っている。かつて、一瞬前まで彼女を構成していた組織は最早もの言わぬ点で川岸の石と全く同じで合った。
最後は牛。彼?には猫が爆散した理由が分かったようで、川岸には入らない。ハルバードと呼ばれる槍と斧を合わせたような武器を持って、川岸との境を守るように立っていた。
速度を落とさずそのまま突っ込む。ハルバードが臍の辺りから真っ二つにせんと横から迫るのを上に弾いて反らす。
牛が口角を吊り上げた。
弾いたハルバードの先端が真紅に包まれた。
「死ね、若造。」
牛は地の底から響くような声で唸る。
「ちっ…!」
双剣を交差させ防御姿勢を取る。致命傷には至らなかったものの、剣を握る手が焼かれ、思わず取り落とす。
「ほぅ。防ぐか。」
また口角を吊り上げる。
「若造、我らの血が入っとるな?」
「だったら何だって言うんだ?」
火傷を負った手を庇いつつ答える。
「いや。だとしても情けはかけんという話だ。」
せめて苦しまずに死ね。
再びハルバードに火が灯る。
ああ、終わりか。
きつく目を閉じた瞬間、銃声が響いた。目を開けると牛は猫と同じ末路を辿っていた。
「立て。」
声に従い視線を上げる。まず目に入ったのは顔の半分を占めるのではないかと思う眼帯。
端整な顔は全くの無表情。
ほっとした反面何を言われるのか不安でもあった。これは少なからず彼を危険に晒したはずだから。自分からやると言ったのに結局迷惑をかけてしまった。
「手、見せろ。」
「はい?」
差し出した手を眺め、ぼそりと告げた。独り言のようにも聞こえる。
「レベル2くらいか?とにかく早く冷やさないと面倒なことになるぞ。」




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