来神時代



完全に起きるタイミングを逃してしまった。
委員会で遅くなるシズちゃんを待っていたはずが、うとうととしていて気づいたら寝てしまっていた。
シズちゃんが教室に戻ってきたときに目が覚めたのだけれど、シズちゃんを驚かせようと寝たふりを続けた。
でも、それがいけなかったのだと気づくのにはそう時間はかからなかった。
戻ってきたシズちゃんは机に伏せている俺の前に座ったらしく、なにも言わずに俺の頭を優しく撫ではじめた。

「臨也…」

寝言でも言えばその手は引っ込まれると考えていたのに、その矢先。
シズちゃんが、聞いたこともないくらいの優しい声で俺の名を呼んだのだ。
その驚きのあまり起きそうになる。
このとき、実行していればよかったのだ。
いまさら思ってももう遅い。
二回もこんな後悔をするなんて。

このどうしようもない動揺を抑えようとしていると、シズちゃんはまた口を開いた。

「…好きだ。」

その低い声で、囁くようにいうシズちゃん。
正直、このうるさい心臓の音がシズちゃんに聞こえないか心配だ。
顔に集まる熱もさめそうにない。
そこに、またもシズちゃんの甘すぎることばが発せられる。

「早く起きろよ」

言われなくても起きてるってば。
そんなことを心の中で呟くも、起きるタイミングを逃して起きられない。
ああ、携帯でも弄っていてくれればいいのに。
俺の頭の上においた手のひらは、相変わらず温かくて。
たまに、そっと撫でたり、ぽんぽんとたたいたり、やけにその手が優しくて困る。

いつものシズちゃんじゃないみたいで、すごく調子が狂う。




「ん…あ、れ、シズちゃん…?」

「あ?やっと起きたのかよ」

目が覚めると、シズちゃんは携帯を弄っていて。
気づけば頭の上にのせられていた手はいまではその機械をいじっているだけだった。
外はすっかり暗くなっていて、いつのまにかまた寝てしまっていたようだった。

「起こしてくれたっていいじゃん。せっかく待っててあげたんだし。」

「起こしただろ。でもてめーが起きなかっただけだ。」

起こしたって、あの囁きのことだろうか。
だったら起きなかった俺は悪くない。
シズちゃんの起こし方が悪かっただけだ。

「…ねえ、シズちゃん」

「なんだよ?」

あのときの返事を、いましてみようか。
そんな、好奇心がうまれた。

「…やっぱ、なんでもない」

いま言っても、つまらないじゃないか。
逸る気持ちを抑えて、シズちゃんに帰ろう、と告げてさっさと教室を抜け出す。

けれど、シズちゃんのあの低い声が忘れられなかった。




夢の中の囁き




110830
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -