first love






ざあっ!…と風で巻き上げられる桜の花びら。

満開の桜と、薄曇の空。まるで淡いピンクの雪のように散る桜は とても綺麗だけど、戻らない真子を想って泣いた、あの五番隊の桜の下にいた時の気持ちを思い出して、少し切ない。


「砂南?……何を黄昏れとるねん」

と、後ろから あたしの肩に顎を乗せ、だらん、ともたれかかる真子。金色の髪に頬をくすぐられて、思わず首を竦める。

「桜見ながら半ベソとか、あんまり ええ酒やないで」

「……泣いてないよ」

「そうか?」


いつのまにか、腕に掛けるように巻いていたストールが滑り落ちて地面につきかけていて、それを取り上げると肩に ふわりと巻いてくれる真子。だが、それだけでは気が済まないのか、見栄え良く巻こうと、あちこち引っ張ってみては、後ろに下がって全体を見て首をひねる。

やがて、やっと何か納得できたらしく、ひとりで頷いて満足げに笑う。

「よっしゃ、可愛くなった!」

そう言って あたしの肩に伸びる手。引き寄せられるままに 真子の胸に、ぱふん、と凭れる。

「泣き虫」

からかうような、意地悪な口調。

「泣いてないってば」

「ホンマか?」

真子の胸に伏せた顔。両頬に手を添えて、真っ直ぐに合わせられる視線。こつんと額がぶつかって、金色の髪がサラと揺れる。

「……泣くんやったら、俺んとこきて泣きや。責任持って、泣きやましたる」

「真子……」

「俺のせいで、100年ずっと泣かしとったんやもんな」

優しい笑顔は、100年前と全く変わらない。だけど……。


「……そういえば俺、砂南に聞いてみたいことあってんけど」

「何?」

「オマエの初恋て……俺なん?」


期待に満ちた目。それがおかしくて、くすくす笑いながら真子の背に ぎゅう、と腕を回して。また真子の胸に顔を埋めたまま答える。

「今の真子との恋は、2つめ、かな」

「はあっ!?オマエそれ……」

動揺する真子の科白は、最後まで口にされなかった。



「くぉらぁ、ハゲ真子!砂南泣かすな言うとるやろ!?」

「ちょ……誤解や!」
「何が誤解やねん!砂南が動揺しとる時は、アンタ絡みやて決まっとるわ!」

「ま、待って、ひよ里」

サンダル片手に真子のネクタイを締め上げる ひよ里。止めに入ろうとした あたしに何を思ったものか、真子を引き摺りつつ、ひよ里は言った。

「ウチに任しとき。アンタの代わりにウチが真子シバいといたる!」

「あー、ひよりんズルいー!あたしもやるー!」

「白は関係ないやろが!……というか、ひよ里かて関係ないわ!」



えーーとーー……。

呆然と ひよ里と白に引き摺られていく真子の姿を見送っていると、ぽんと肩を叩かれる。

「ほら、砂南も呑むよ。おいで」

リサに腕を取られ、みんなの待つ宴席へ連れて行かれる。

ピクニックシートを敷いた芝生の上、拳西お手製の料理と大量の酒瓶が並ぶ。

「おら、最初に味見させてやる」

と、差し出されたお椀の中身は豚汁。御丁寧にカセットコンロまで持ち出して、大鍋をかき回している拳西。


……甘やかされてるなぁ、あたし。


と、お椀に箸をつけようとした瞬間、背後で聞こえる悲鳴。

…………あ。忘れてた。

「……落ち着かないから、ちょっと止めてくるね」

そう言って立ち上がった あたしに、ニヤニヤと手を振るリサ。



……そう言えば、話が途中になっちゃってたな。


前の生で、恋も知らないまま子供まで生んだ あたしが、尸魂界で金色の髪の隊長さんに出逢って初めて知った感情……。


……多分、あの頃と今とで、あたしも真子も変わったんだ。いつか……話せたらいいな。


そんな想いも新たな悲鳴に蹴散らされ、苦笑しながらも、あたしはひよ里たちの側へと足を早めた。



(2010.03.29. up!)



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