幸か不幸か


今思えば、今日は色々とツイていた。だからその分の不幸が一気に回ってきたのだろうか。

朝、休みの日なのに一人で起きれた。なくしたと思ってたお気に入りのペンが見つかった。カードキャピタルに行けば櫂くんに会えたし、ファイトだってしてくれた。パックを買えば、ずっと欲しかったカードが当たった。

こんな事ならいつもの日常で良かったと心底思う。

――今僕は、所詮不良という類いの人たちに囲まれている。
浮かれていた僕はカードキャピタルから真っ直ぐに帰ろうとせず、寄り道をしたのだ。いつもと違う道で帰りたいな、なんて思った自分を呪いたい。
いつもの道と大して変わらないし、離れてもいないのだけれど、見慣れない道はそのときの僕にはなんだかとても新鮮に見えた。
そんな時だ。何人かの話し声が聞こえたかと思ったら、急に腕を引かれて路地裏へと引きずり込まれた。

そして、今の状況というわけなのだ。

不良たちはいかにも漫画に出てきそうな格好をしていて、更に予想通りな事を言ってきた。

「オレたち今金なくってさー」
「そうそう。だからさ、恵んでくんね?」
「ちょっとでいいからさ」

不良は三人。ただでさえ非力な僕はどう抵抗しようが無理だろう。しかし、最後の悪あがきというように恐る恐る声を絞り出した。

「あ、あの、僕、今お小遣い持ってなくて、だから」
「あれ?」

返ってきた答えは疑問符のついたものだった。何だろうと思考を巡らせていると、不良たちは僕を置いて話を進めだした。

「おい、こいつって男…だよな?」
「制服はそうだけど…。でもオレこいつで抜けるかも」
「まじかよ!」

会話の内容はよく分からないが、僕が馬鹿にされているのだろうとはなんとなく感じられた。と、同時に嫌な予感がして背筋がぞわり震えた。
予感は的中し、不良の一人が僕に向かって手を伸ばしてきた。
どうしようどうしようどうしよう。脳内で警報が鳴る。本能が逃げろと言っている。なのに僕の身体はまるで金縛りにでもあったように動かない。唯一膝だけがガクガクと震えていた。
する、と触れられてゆっくりと服の上から身体を撫でられる。その触れ方に嫌悪感が溢れ、吐き気がする。
僕は何も出来なくなって、現実から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。

「それじゃあ…、………」
「…!……」
「…え?」

何かを殴る音がしたあと、急にしんと静まり返った周りを不思議に思い目を開けるとそこには先程まで僕の前にいた不良たちが倒れて呻いていた。
何が起こったと辺りを見回すとそこに居たのは。

「か、い、くん…?」
「…っ、はぁ、大丈夫か、アイチ!」

櫂くんに強く名前を呼ばれ、びくりと身体を強ばらせてしまう。
櫂くんが何故ここに?という疑問が浮かぶ前に路地裏から引きずり出されて、そのまま腕を引かれながら不良たちから逃げるように走る。
暫く走って僕の息が切れかかったところで見慣れた路に出た。
そこで櫂くんは立ち止まり、必然的に僕も立ち止まって、そのまま座り込んだ。
そのときに掴まれた腕が離れ、温もりが消えたことに多少の寂しさを覚えた。

「……」
「……」

息を整えてからも僕たちは沈黙を貫いていた。僕は何を話せばいいのか分からず先程から口をパクパクさせていた。
しかし、その沈黙を破ったのは櫂くんだった。

「…大丈夫だったか」
「うん、怪我とかはしてないよ。ありがとう、櫂くん。でもどうしてあの場所に?」
「……」

また黙り込んでしまった櫂くんにまずいことでも聞いてしまっただろうかと不安に駆られていると、櫂くんはぼそりと呟くように言った。

「送ろうとしたらもう居なかったから探していた。まさかあんな目に合ってるとはな」
「あう…ごめんなさい…」
「お前が謝ることではないだろう。それより怪我はないと言ったな。じゃあ何をされた?」
「…っ!」

大袈裟な反応を返して、しまった、と思ったときには遅く、櫂くんは訝しむように僕を見る。

「…触られた…のか」

耳元でそう低く呟かれてしまえば、僕は何も出来なくなって素直に頷いてしまう。それを確認した櫂くんは再び僕の、今度は手を繋いで引っ張って行く。

「櫂くん…?何処に行くの?」
「…俺の家だ。触られたとこ、消毒しないとな」
「…ふぇっ…!?」







幸か不幸か
(幸せ、かも)








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匿名さま、五万打企画参加ありがとうございました!
不良に絡まれるアイチを助ける櫂くん、とのことでしたがリクエストにお応え出来たでしょうか…?喜んでいただければ幸いです!

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