永久のクレオメ06
初めて櫂様の部屋を訪れてから、1週間が経った。
勢いで部屋を飛び出して、一日中どうしようかと悩んだけれど、こんなチャンスを逃したらもう二度と来ないんじゃないかと思い、誰にも相談せず三和さんにも何も言わずに今もこうして櫂様にお茶を淹れるという仕事をこなしている。
勿論、始終無言。
元々召使いである僕が必要以上のことを話せる筈もない上、初日に泣いてしまうという失態を犯したんだから当然といえば、当然で。
櫂様はあの日のことを聞かずにいてくれているけど、不審に思ったのは間違いない筈。そんな僕に仕事をさせてくれているならそれだけで幸せなんだ。
―そうだ、櫂様が願えば、僕が今やっていることは、今すぐにでも止めさせられるんだ。
それでも何も言わずにやらせてもらえるということは少なからずそこまで変に思われていないということなのかな。
―いや、寧ろもう忘れられているのかもしれない。
そう思い自嘲気味にそっと笑う。そうだよ、こうやって気にしても仕方ないんだ。どうせ、前の人の怪我が治れば僕はこの仕事を強制的に降りることになる。あと数日で終わるかもしれない櫂様との時間を無駄に過ごしてどうするんだ。僕は淹れ終わったハーブティーを櫂様の邪魔にならないように書類の横にそっと置いた。その時だった。
「アイチ、と言ったか」
「えっ…」
突然、それはとてつもなく突然だった。いつもの様にハーブティーを置いて、いつも様にこの部屋から出て行こうとした瞬間だった。
ただ、いつもの違うのは僕が考えていることだけだった。
「…変な事を聞くが……、」
櫂様は歯切れが悪そうに、聞いてもいいのだろうかと戸惑っているようだった。
どうしたのだろうかと不思議に思い、一言はい、とだけ返事をして櫂様の言葉を待った。
すると、櫂様はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「…お前は…、前に俺と会った事が…、……あるだろう?」
「…っ!!」
僕の中で時が止まった気がした。