何もかもが、遅かった02


∴アイチside




何をやっているんだろうかと思った。
今日は三和くんに飲みに行かないかと誘われたけど課題があるから、と断った。
ほんとは課題があるなんて大嘘。ただ今の状態じゃとても人に会えることなど出来ないと思った。


『櫂くん彼女出来たんだってー!』
『えー!うそー!?私狙ってたのにー!』


校内を出ようとしたときに聞こえてきた、聞いてしまった会話。あれから僕はどうやって家に帰ってきたのかは分からないけど気付いたらベッドに倒れこんで泣いていた。
こうなることは覚悟していた筈なのに、溢れだす涙は止まらなくて、シーツが濡れてしまうのも構わずにわんわん泣いた。
暫くすると頭も冷静になってきて、喉が渇いてきた。とりあえず何か飲もうと、冷蔵庫のところへ行く為に立ち上がった。


「あ…」


しかし中身は殆どなくて、そういえば今日買い出しに行こうと思っていたことを思い出した。
時計を見るとあと数十分で日付が変わる時間になっていた。この時間じゃスーパーは無理か、と諦めて遅めの夕食と明日の朝ご飯、昼ご飯だけでも買おうと、コンビニに向かう為に財布と携帯だけを持って家を出た。

―…なのに、神様はいじわるすぎると思う。

コンビニに向かう途中で、今一番会いたくなくて、でも会いたい相手に会ってしまった。
しかも、思わず漏れてしまった相手の名前に気付かれてしまったのだからもう逃げようがない。
目線を合わさないようにしながら当たり障りのない話題を引き寄せる。


「今日三和くんに誘われたよね?」
「まぁな。お前は課題をやっていたそうだが?」
「あぁ、やっぱり。ごめんね。課題、うん」


そういえば三和くんには課題があるからって断ったっけ。記憶の断片を手繰り寄せながらなんとか返す。
だけどそんな僕を不審に思ったのか櫂くんは怪訝そうな顔をして、少し屈んで顔を覗き込んできた。昔から櫂くんとの身長差は変わらなくて、あの頃は少しでも追いつきたかったけど今はこのままが良い、なんて思っちゃったりして。
そんな現実逃避をしてしまうくらいに僕は動揺してしまった。課題で疲れたのか、と櫂くんに心配してもらったことが申し訳ないと思って、慌ててそうかも、なんて縦に首を振る。
本当は櫂くんのことなんだよ。そう言えたら楽なのに。そんなことを考えていたら知らずと僕の口から言葉が零れていた。


「…ねえ、櫂くん。もしも、好きな人に恋人が出来た、って聞いたらどうする?」


突然そんなことを言われて案の定眉間に皺を寄せて首を傾げる彼に苦笑しながらも一度開いた口はなかなか閉じてくれない。


「どうしたんだ、急に」


彼は困っているじゃないか、そう頭は思うのにどんどん溢れ出す言葉はつい数時間前の自分の涙のように止まること知らない。
課題は嘘だった。さっきまで泣いてた。櫂くんには知られてほしくないはずのことまで言ってしまって、そして止まってた筈の涙までもが自分の口と繋がっているかのように溢れ出した。
ごめんなさい。好きになってごめんなさい。こんなことを言ってごめんなさい。
心の中で何度も謝罪をして、何も言わない櫂くんの前で僕はただただ涙を流していた。


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