おめでとうの言葉だけ


3月31日―

アイチが時計を見ると、針は丁度11時半を指していた。

数日前のカードキャピタルでアイチが聞いたのは4月1日が三和の誕生日らしいということだった。
らしい、というのはアイチが直接聞いたのではなく、ファイトをしている最中に聞こえてきた会話を偶然聞いたからだった。


「あと30分、かぁ」


アイチは三和へ何をしようかと悩んでいた。
三和のことを恋愛感情で好きになっていたアイチはこの機会にどうしても何か喜んでもらえるようなことがしたかった。
しかし、この数日ずっと何をしようかと考えていたのだが、結局何も思いつかずにあと30分でその日を迎えようとしているのだった。
このままだと、何も出来ずに終わってしまう…と思い悩んでいるとふと、机の上に置きっぱなしにしていた携帯が目に留まった。
鞄に入れておかないと明日忘れていってしまうかもしれない。安全の為に、と母から持たされたものなので、常に持っていないと意味がない。
立ち上がり、机から携帯を手に取ったところで思い出し、パカ、と折り畳み式のそれを開いた。
買ったばかりの頃に、カードキャピタルの常連メンバーとは、番号を交換していたのであった。
電話帳を開いて、つい先ほどまで想っていた相手のページをそっと開く。そこに表示されたのは三和の携帯番号。アイチはまだメールしかしたことがなかったが、いつの間にかその番号をも覚えてしまっていた。
決定ボタンを押すと、いくつかの選択肢。発信、と書かれたとこまできて深呼吸。
そこではた、とアイチは気付いた。そういえばこんな時間に電話を掛けてしまっても大丈夫なのだろうか。もしかしたらもう寝ているかもしれない。そうすれば、この電話で起こしてしまうかもしれない。それはなんだか悪い。そう考えたらアイチは急に自信がなくなってきてしまった。
時計を見ると、12時まであと僅かという時間になっていた。
その事に気付くと、少し思案してから、アイチは思い切ってボタンを押した。


(三回だけ…コールしよう…)


プルル…プルル…

アイチの耳にはそのコール音と時計の針の音、それから自分のどきどきとうるさい程に鳴り響く心臓の音しか聞こえていない。

プルル…、と三回目のコール音が鳴り終わりそうになり、アイチが少しほっとしたような、しかし残念だな、と思ったとき、ピ、と電話に出る音が聞こえた。


「…っ!?」
『もしもし?アイチ?どうしたー、こんな時間に?』


聞こえてきたその声に思わず息を呑む。ぱくぱくと魚のように口を開けなんとか声に出した。


「み、三和くんっごめんね、夜遅くに!もしかして起こしちゃった?」
『いーや別に?起きてたぜ』
「そ、そっか…」
『おう』


緊張で思考がぐるぐると回り、えっと、だのその、だのしか言えずにいると、


『?アイチ何か用があったんじゃなかったのか?』
「あっ…!えっとね…その…」


心の中で再び深呼吸をすると、ちらりと時計を一瞥する。


「三和くんっ!誕生日おめでとうっ!!」


そう言うとともに時計は12時を知らせるピピピという音が鳴った。


「あっ、えっと、ごめんね…前に今日が三和くんの誕生日だって聞いて、それで、ずっとプレゼント考えてたんだけど全然思い付かなくて、せめて一番におめでとうって言いたくて、えっと」


黙ってしまった三和におろおろとしてしまう。どうしたのだろうかと声を掛けようとすると三和に先を越された。


『サンキュー!アイチ、すげー嬉しい』
「えっ、ほんと…?」
『あぁ!好きな奴に一番におめでとうって言われるなんて俺幸せ者だな!』
「へっ!?」


突然言われた言葉に今度はアイチの方が黙ってしまう番だった。


「みわくん、いま、なんて、」
『好きだよ、アイチ』


ぼんっと音を立てるような勢いでアイチの顔はみるみるうちに林檎のように赤くなった。







おめでとうの言葉だけ
(…の、つもりだったのに…!)







title:確かに恋だった

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三和くんの誕生日にあげるつもりだったのに1ヶ月以上もライド事故とか…_(:3」∠)_
途中まで書いてたのでせっかくだから書き上げてあげました( ´~`)
三和くん誕生日おめでとうでした!!



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