さよならのあとに01
その話を聞いた瞬間、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「あの櫂に彼女が出来たかもしれない!」
そう言ったのは三和くんで。学校ではほぼ櫂くんとともに行動してる彼の言うことだ。間違いではないのだろう。
―櫂くんに…彼女…
櫂くんへの自分の気持ちが憧れや尊敬ではないと気付いたのはいつ頃だろう。
三和くんの話をあの櫂が!?と興味津々に森川くんや井崎くん、カムイくんにさらにはミサキさんまでが耳を傾けている様子を遠目で見つつそれ以上は何も聞きたくなくて、僕は自分の回想に沈んでいった。
「お兄さん?」
隣に座っていた為、ぼーっとしていることに気づいたらしいカムイくんが心配そうに覗きこんできた。思わずへっ?と間抜けな声を出してしまった自分に恥ずかしいと思いつつ、なに?と聞き返す。
「いえ…どうかしたのかなって」
「え、えっと、なんか体調悪くて、」
え、と声をあげ、大丈夫ですかと慌てるカムイくんに今日は帰るねと声をかけ、帰るのかと問いかけた他のみんなにもうん、と答えその話の輪から抜け出した。
「彼女…」
でもやはりさっきの話が気になってしまい、どうしても頭から離れなかった。
元々、櫂くんと僕は男同士で、仮に僕が女の子だったとしても櫂くんはかっこいいし、運動も出来て、頭も良い。ヴァンガードファイトも強いし、女の子にモテる。そんな彼とは正反対の僕じゃ絶対に相応しくない。改めて現実を思い知ってはぁ、と深い溜息をつく。
櫂くんの彼女ってやっぱり可愛いんだろうなぁ、そう考えると当然自分なんてちっぽけで。友達という地位すらあやふやなのに、見たこともないその子に嫉妬して、羨ましいという気持ちが溢れ出てくる。じわりと涙が出てくるのが分かった。
―なんか、もう櫂くんと顔合わせられないな…。
今のままで彼に会ってしまったら、きっと彼の前で泣いてしまう。そしたらなんて言う?好きです、なんて言えたらどんなに楽だろう。だけれども僕にはその一言が言えなかったから。今こうして後悔してしまって。気づけば目に溜まっていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。
ダメだ。もうこの気持ちはなくしてしまわなければいけない。誰にも言わずに、ずっと封印しておこう。そうすれば、きっといつか消えてなくなる。だから、さよならしなくちゃ、この気持ちに。しばらくは櫂くんとも必要以上には接しないようにしよう。
そう心に決め、僕は家まで走って帰ることにした。走れば涙なんてすぐに乾くと思ったから。