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「なあカイト。遊馬って今日会える?」
「……確認しておく」

 デュエル後、遊馬が「あのさ……十代兄ちゃんに聞きたいことあったんだけど……」と切り出してきた。
「おっ、なんだなんだ? カイトには言いづらいことか?」
 遊馬の相談先といえば真っ先に思い浮かぶのはカイト。そのカイトに言えないこととなると内容はその当人に関することなのだろうと察する。
「十代兄ちゃんもやっぱヨハン兄ちゃんと、ちゅ、ちゅーとかすんの?」
「……おー、まあ……」
(オレ殺されるんじゃねえか? カイトに……)
 遊馬とこんな話するのに罪悪感が湧いてきた十代は冷や汗をかく。
「ひゃー! や、やっぱり!?」
「まあ、コイビトだしな……」
 照れた様子の十代に遊馬はさらにドギマギする。いつもカッコいい‘‘十代兄ちゃん’’が珍しい顔してるからだ。
「にしても、どうした急に。お前まだカイトにダメだって言われてんだろ?」
「うっ……そうなんだけどさ。想像するくらいはいいだろ?」
「ふーん。遊馬も苦労してんだな」
「ヒトゴトだと思ってー!」
「ははは。まあこればっかりはしょうがねえな。カイトの気苦労も分かってやれよ?」
「十代兄ちゃんはカイトの味方すんの……?」
「そこまで言ってねえよ。でも、そうだなー……言葉にしてもらえたら、少しはその不安もマシになるんじゃないか?」
「それって十代兄ちゃんの経験談?」
「……ん。まあな」
 ヨハンはいつも好きだと言葉にしてくれる。十代は遊馬にアドバイスしつつ改めてヨハンのそういうところが好きだなあと思った。
「でもカイト、あんまりソウイウこと言ってくれねえよぉ……」
「そうだ、いいこと教えてやるぜ。たぶんアイツなら……」
 コソコソと囁くように十代は提案した。
「えっ!? でも、そんな、」
「押してダメなら引いてみろって言うだろ?」
「な、なるほど……分かったぜ、十代兄ちゃん! よっしゃー! かっとビングだ、オレー!」
「よしよし、いつもの調子に戻ったな」





 その次の日のことだった。
「カイトー!」
「……遊馬?」
 カイト、十代、ヨハンが三人並んで校門へ歩いていると、そこには遊馬がにこにこと笑顔を振り撒きながらカイトの名を呼んでいる。
 イケメンなのに無愛想、で有名なカイトにあんなに気軽に話しかけるなんてあの子はいったい、と疑問を抱く視線が集まる。
「カイト、モテるからなー」
 そう言って笑うヨハンだが、ヨハンも女子からの人気が高くまさに『お前が言うな』案件だ。突っ込む者はこの場にはいなかったが。
「どうした。何故ここにいる」
「あ、えっと、オレカイトに聞きたいことあってさ」
(あっやべっ、遊馬のヤツ今ここで言うのか。……まあ、オレの提案だってバレなきゃ平気か)
 早々に察した十代は密かにひとりだけドキリとする。
「なんだ。わざわざくだらんことを問いに来たのではなかろうな?」
「おう、大事なことだぜ!」
 遊馬は、すう、と大きく息を吸った。そろりと目をそらし、気づかれないよう数歩後ろに下がった十代。当然それに何かを察したヨハン。呆れたように十代を見て、同情を浮かべながらカイトへ視線を戻す。たぶんこのあとすぐ何かが起きる。
 十代が遊馬に何か吹き込んだなら、それはロクなことにならないに決まっているからだ。

「カイト以外に、す、好きなヤツができた!」
「………………は?」

 ほらきた。ヨハンの心情はそれだった。再び十代を見やるとバッチリと目が合う。ヨハンの言わんとすることを読み取ったらしく、十代はたはは、と笑いをこぼして気まずそうに頬をかいていた。
「だから、えーっと、えっと……、」
 十代はそれだけしか教えなかったらしい。遊馬はそれ以降何を喋るか考えていなかったみたいでおろおろと次の言葉を探していた。だが遊馬の心配は杞憂に終わる。何故ならカイトは時が止まったみたいに微動だにせず固まっていたのだから。この調子ではもはや何も聞こえていないだろう。
「あれ? カイト? おーい、カイト〜?」
「……ッフ、」
 耐えきれず先に吹き出したのは十代だった。そこでようやく銀河の果てにでも飛んでいたであろうカイトの意識が戻って来た。ハッとしたように遊馬を見据える。その眼孔はギラギラと恐ろしい光を携えており、遊馬はそれを見た瞬間恐怖で震え上がった。しかしこんなときにも遊馬は勇敢さを発揮させてしまう。勇敢さを履き違えた無謀だった。
「な、なんだよぅ……別にカイトはオレのコイビトじゃねーんだからそんな怖い顔しなくていいだろ?」
「ほう……では何故貴様はその恋人でないオレにそんな報告を?」
「うっ、……ぐ、」
 カイトの返しに対して言葉を詰まらせる遊馬。傍から見ると年上のカイトが大人げなく見えてしまうかもしれないが、カイトはカイトで現在心中を察するものがあるのでヨハンは助け舟をだすことにした。
「遊馬は一番にカイトに聞いてほしかったんだよな?」
「ヨハン兄ちゃん、……う、うん」
「じゃあカイトも」
「……勝手にしろ」
「おい、そんな言い方……」

「……っ、カイトのバカ! ヘタレー! ボウヘンジンー!」
「な……っ!? おい待てッ、遊馬! それを言うなら朴念仁……いやオレは朴念仁ではない!」
「ツッコむんだ、そこ」
「カイトが朴念仁ってのは合ってるんじゃないか?」
「……ところでさ、なあヨハン」
「どうした十代」
「ボクネンジンってどういう意味だっけ?」
「十代……」
 お前も当てはまってるぜ、とは言わず、ヨハンは淡々と説明してあげた。

「……十代が」
「うん?」
「同じ歳で良かったなあって。あいつら見てるとしみじみ思うぜ」
「……オレも」
「ははっ、やっぱり? オレだったら我慢できる気がしないもんなー」
「お、お前なあ……」


「十代貴様! 懺悔の用意は出来ているか!」
「うるせえ! 遊馬にあんな悲しそうな顔で相談されて放っておけるかってんだよ!」
「ぐっ、……オレに連絡すれば良かっただろうが」
「そんなことしたらオレが遊馬に嫌われちまうだろ!」
「知らん、そんなことはオレの管轄外だ」
「コイツ……! ヨハン! お前も何か言ってくれよ〜!」
「いやあ……オレは結構カイトに同情してるぜ……?」
「う、裏切り者……!」

22 Feb 2023

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